第15話 「ガキを相手に刃物とか」
主成分となっているのは
そこに不安や恐怖や嫌悪といった、諸々のマイナスが大量混入。
血走った
「いいかい、瑠佳ちゃん……さっきも言ったけど、パパは今ちょっとだけ困ってるんだ。だからね、助けてくれないかなーって、お願いしてるんだけど」
「うるっさい! 何がパパだっ!」
「とりあえずさ、落ち着いて事情を聞いてよ。パパが困ったままだと、ママも、
「このっ……クソ野郎……っ!」
子供は親を選べない――家族が原因の不幸は、世の中にいくらでもある。
ここから半世紀先の未来でも見飽きるほど遭遇した、ありふれた不幸だ。
だからといって、その当事者が甘んじて環境を受け入れる必要なんてない。
以前の瑠佳はきっと、全てを諦めて人生を捨ててしまったのだろう。
たった一人でこの場に放り込まれたら、きっと抵抗する気も起きなくなる。
だけど、ココには俺がいる――だから、諦めるなんて許さない。
「ふぅ……
「いやぁ、お恥ずかしい。やっぱり片親に育てられるとダメですなぁ」
「ふっ――ふざけたこと言うなっ、お前っ!」
木下と門崎のやりとりに、瑠佳はますます激発し、絶叫する。
険悪な気配に
ニヤニヤしている木下は、鼻からムフーと煙を吐き出すと、隣の手下に命じる。
「おいスギ……カメラ回してな、こういうシーンも撮っとけ」
「ウス」
「後々どうなるかとの対比でな、効くんだわ。強気な娘のブチキレなんてのは、いいアクセントになってくれるぜ、なぁ?」
「……ウス」
スギと呼ばれたチンピラは、ソファの脇に置かれた鞄に手を突っ込んで、ハンディタイプのビデオカメラを取り出す。
パスポートサイズをウリにした、8ミリテープで録画する懐かしの――
いや、この当時ではそれなりに新しい型の、現行製品なのだろうが。
「ビデオって、やっぱり……」
「あぁ、そんなビビるな。お前が想像してるタイプの撮影はたぶん、半年とか一年とか先だな。その前に、別の仕事が待ってるから」
「なっ、何をさせる、気なの」
「そいつはまぁ、飼い主の気分次第だな。お前は奴隷になるんだよ、パパの借金を返すために。ケッケッケッケッ……どんな変態に飼われるか、楽しみにしとけ」
木下からの宣告を受けて、瑠佳の顔色がサッと白く転じる。
さっき俺が語った内容そのままの脅しが目の前のヤクザから出て来て、自分の置かれた状況を再認識するハメになったのだろう。
こんな無茶が
「どっ、奴隷⁉ 何なの、それ⁉ ワケわかんないから! そんなの、そこの、そのオッサンにやらせりゃ、いいでしょ!」
「ハッ! こんな四十過ぎの不健康なオッサン、必要なカネに全然足りんわ」
「酷いなぁ、木下さん。こう見えて僕だって、まだまだイケますよ」
「じゃあ門崎さん、アレはどうだ? 生きてる人間をナイフでもってな、ちょっとずつ
「いやいや、それやって借金なくなっても、僕もいなくなるじゃないですか」
「ガッハッハッハ! そりゃそうだなぁ!」
ゲラゲラ笑う木下と、ヘラヘラ笑う門崎を前にして、瑠佳の表情はますます曇る。
にしても、
木下は半分ほど吸った煙草を揉み消すと、不意に凶暴な視線を瑠佳へと向ける。
「あんまり反抗的なのも、面倒くせぇな……おい、お前」
「自分っスか」
「そうだよ。お前な、ちょっと妹の方を二、三発殴っとけ」
俺を指差して、木下がフザケた命令を発してきた。
瑠佳はより強く妹を抱き締めながら、当然キレて反論する。
「なっ……何で! 汐璃は関係ないっ!」
「そうやって、キーキーうるせぇからだ。お前が言うこと聞かねぇと、全部そのチビガキにケジメつけさせるぞ」
「そんなっ――」
「お前が言われたこと全部にハイって言っときゃ、それでよかったんだろうが! 全部お前のせいなんだよ、お前の! わかってんのか、わかったらハイだよハイ!」
理不尽に話を進めて、強引に思考停止へと追い込み、反論も拒絶も許さない。
典型的なヤクザ論法だが、
しかもこの場合、暴力を背景にした脅迫もセットになっているので、女子高生と女子小学生のコンビには
「おぅお前、早くやれ。グーだと死んじまうかもしれないから、パーでやれよ」
「ういっス。こんな感じ、ですかね?」
「ぶぼらっ――」
重ねて命令された俺は、トットッと木下の方に二歩踏み込んで、270度の
まるで予期できていなかったらしい木下は、「べぢっ」という
そんな光景を至近距離から目撃して、門崎は
一方で、俺の行動に慣れ始めている瑠佳は、妹を抱えて部屋の隅へと退避。
「さっきから、何を騒いで……あぁ? 何だよ、こりゃあ」
両開きのドアから、キツめにブリーチした短髪を逆立てた男が出てきた。
色の薄いサングラスの奥から、鋭い眼光で応接室を
コイツが恐らく、この『HST総合管理』社長の
180くらいの瘦せ型で、年齢は二十代の半ばから後半、といった辺りだろうか。
ジャケットにジーンズのラフなスタイルだが、身に着けている腕時計やダイヤのピアスなどは、かなり金を持っているヤツの
多少の
「芦名ぁ、どうなってる⁉」
「いや、それがオレにもよく――」
「そこのガキの、カチコミっすわ!
貞包に芦名が状況を説明しようとすると、ボスと一緒にコケていたスギが身を起こし、話に割って入った。
その手には、どこからか出してきた
木下の方は仰向けに倒れたまま、盛大に鼻血を噴いて気絶している。
兄貴分がこの状態なら、子分としては復讐するしかないってのはわかるが――
「ガキを相手に刃物とか……ヤクザなのにヘタレすぎない?」
「うるっせぇクソガキっ! てめぇは
軽く
完全にカルシウム不足のスギは、
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