第四話 情報を求めて

 リンダルト村の戦いから三日後。


 火の手を逃れていた物資をありったけ持ち出したヴァンクは、そのまま次の目的地へ向かっていた。


 行く先は「ノレオ伯爵領・古都バルバリア」。


 七百年前に炎竜リドルグによる襲撃を受けたことのある街であり、それがバルバリアからティルフィアへ遷都するきっかけとなったそうである。


 今ではすっかり復興して、意図的に残された遺構はすっかり面影さえ残っていない程。


 しかしここ数年、少しずつ狂竜の目撃情報が増えている街だそうな。


 その噂はどうやら本当であったらしく、ヴァンクは古都付近の道端で、全身を切り裂かれて横たわっている農民らしき死体を目にした。


「うわぁ」


 何やら只事ではないと感じつつ、ヴァンクはリンダルト村と同じく「ヴァーニア・ケルン」という名を用いて身分を証明しようとする。


 当然ながらヴァーニアという名の人間など存在する筈は無いのだが、それを確認する戸籍登録システムのようなものも存在しない。


 しかし「ヴァンク」という名であれば、破門寸前の身とはいえ竜教から任を受けているという理由はある。

 伯爵のお膝元となれば、その悪名だけではなく任も知れ渡っていることだろう。


「……実は僕、例の『ヴァンク・アウレン』でして」


 ヴァンクは正直に身分を明かし、王都で作ってもらった証明書を見せた。


「何だ、王と竜教からの任か。ならば仕方ない、通そうじゃあないか。本当ならば、お前のようなトラブルの元になりそうな輩を古都に入れる訳にはいかないのだが……上がバックにいるのならば仕方ない。……そういう事情があるなら最初から言ってくれればいいんだ」


「すみません、警戒されたら困ると思って。でも、通してくれてありがとうございます」


「じゃあ、早く行け。用があるんだろ?」


「はい。行ってきます!」


 ヴァンクは走り出し、急いで宿にチェックインして荷物を置いた後、街の中心へ情報を集めに向かった。


 炎竜に襲撃されたといっても、それは遥か昔のこと。


 今になって炎竜の所在や弱点、その他諸々について小さな情報の一つでさえ持っている人間が、果たしてどれだけいることだろうか。


 一抹の不安を覚えながらも、ヴァンクは繁華街の酒場へ向かった。


「おう、ここはガキの来る場所じゃあねぇぞ」


 酒場に入った瞬間、大柄の男に絡まれる。


 ヴァンクは身を躱して男を無視、そのままカウンターへ。


「すみません、マスター。ミルクを一杯お願いします」


「あいよ」


 いかにも無口なおじいさんといった具合のマスターはジョッキにミルクを注ぎ、ヴァンクへ出す。


「おい待てよガキ!無視してんじゃあねぇ!ミルクだぁ?そんなもん飲みにここへ来たってのかぁ?ケッ!酒がマズくなるぜ」


「まあまあ落ち着いて下さいよ。僕は何も、冷やかしに来た訳じゃあないんですって」


「じゃあ何だよ。話でもあるってか?」


「……じゃあ、折角だし聞いておきます。『炎竜リドルグ』について、何か知っていることはありませんか?」


「リドルグぅ?昔、この街を焼いたって竜の話だろ?知らねぇなぁ。昔、ババアにその話を何回も聞かされて……ウザいったらありゃあしなかったぜ」


「そうですか、ありがとうございます。じゃあ、マスターは何か、リドルグについて……」


「オイ待てってんだよ、ガキ!ここには何も飲めねぇガキは要らねぇってんだ」


「一応、飲み物なら頼んでるんですけど」


「だから酒飲まねぇ奴は目障りだって言ってんだよ!ブチ殺……」


 大柄の男が拳を構え、ヴァンクの鼻先へ振るう。


「……じゃあやってみろよ、ジジイ」


「なっ……!?」


 しかし、その拳はヴァンクに当たる事なく、空を殴りつける。


「吹き飛べ」


 そしてヴァンクは、座席の下から機動力を活かしてアッパーカットを喰らわせた。


「がぁぁぁっ……ぶべぇぇぇぇぇぇぇ!」


 そのまま大柄の男は意識を失いながら、壁面へ激突。


 そしてヴァンクは、何事も無かったかのように席へ座り直す。


「……随分と派手にやるな」


「すみません。あまりにも邪魔だったので」


「……こういう場所では、あの手の輩は珍しく無い。それに……今のを見て分かったが、あんた……相当な訳アリだな」


「知らない方が良いと思いますよ?お互いのために」


 少し前に言ったことを撤回しよう。

 確かに陽気な店主といった様子ではないが、中々に感が鋭く、全くの無口という訳ではないらしい。


「深くは聞かない。それと、炎竜リドルグだが……街中に置かれてる遺構を調べて、後はこの街の北側にある『リィフェル修道院』に行けば、何か分かるだろうな。街に残されていないリドルグの遺構は、あそこで管理されている訳だからな」


「北の修道院ですね、分かりました」


「まあ……最近、あの修道院も妙な動きが増えてきたみたいだからな、観光客には勧めて無いのだが……お前は、どうやら違うみたいだからな」


「ありがとうございます、助かりました!」


「いいってことよ。頑張りな、ボウズ」


 ヴァンクは残ったミルクを一気飲みし、代金を渡して酒場を出る。


 それから、街の至る所に残されている遺構を巡り、いよいよ北の「リィフェル修道院」へと向かった。

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竜聖 -Dragons Legion- 最上 虎々 @Uru-mogami

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