第三話 狂竜

 騎士団で過ごした一ヶ月で、ヴァンクは大きく変わった。


 事件に巻き込まれ、不本意ではあるものの竜の心臓を喰らい、暴れ、多くの人間を殺し。

 劣悪な環境の牢獄で一週間を過ごし、見も心も腐り果て。

 そして騎士団の下で、力と技、そして心を鍛えた。


 今のヴァンクは、紛い物の竜を前にして怖気づくような、か弱い少年ではない。


「ェ、ァァ……タビビト、サン……マダ、ヨル、デスヨ……ハヤク、モド、ッ、テ、クダサ、ア、ァァァァァイ……!」


 涎を垂らしながら一歩一歩、狂竜はヴァンクとの距離を詰める。


「お前、だったんだな……!狂竜!道理で何も言わない訳だ!僕を騙して、食うつもりだったってことだ……!」


「ググ……ゥゥゥァ!」


「あんまり、人をナメるんじゃあないっ!」


「タビビト、タビ、タビ、タビビト……」


「ぐ、ぐぐ……ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉァァァァァァァァ!」


 ヴァンクが喉が裂ける程の叫び声を上げると同時に、肉体の全てが内側から避け、皮膚も骨格も肉づきも、「人型」という点を除いて全てが竜のものへ。


「オネムリ、ネム、ネム、オネムリ」


「ガァァァァァ!」


 歪な狂竜のそれではなく、竜の肉を喰らい、心臓を喰らい、正真正銘人型の竜である「竜人」へと変化したヴァンクは、自我こそ失ってはいたものの、その爪で村長だったものの胸を貫いた。


「オ、オネ、オネ、オ、ネ……ム……」


「グゥゥゥブァァァァ!」


 そして、そのまま胸に引っかけた爪を使って村長の身体を引き寄せ、竜となることで発達した顎と歯で首の肉を喰い千切る。


「タ、ビ、ビ……ト……ァ」


 村長は白目を剥き、倒れ伏す。

 ヴァンクはその頭部を足で砕き、そのまま家具という家具を破壊し尽くした。


 そして、そのまま家を出る。

 すると案の定、村は数十の狂竜に占拠されていた。


「キャ、キャアアア、キャア、ガァ」


「キョウリュウ、キョウリュウガデタ、デタ、デタ、キョウリュウ」


「バンゴハン、バンゴ、バンゴハン」


 家屋には既に火の手が上がっており、狂竜達の中には、互いに互いを喰らい合っている者達もいた。


 しかし、そのどれもが歪な形のまま動く、竜と人との混合生命体であることは共通であった。


「グゥゥゥ……ガァァァァァ!騙シタナァ!ジジイ!殺シテモ、殺シ足リナイ……ァァァァッ!!!」


 転がる肉片を踏みつけ、死体の頭を砕き、兎を狩る鷹のように狂竜達の首をもぎ取りながら、ヴァンクは村を駆け回る。


「ヒャッハハハハハハハハハハハァ!グヴヴヴヴヴァァァァァァァ!!!」


 もぎ取った首を咥え、血肉を啜りながら次から次へと狂竜を殺して回るヴァンク。


 理由は不明だが、何やら狂竜達の元となった人間はごく普通の村人であったらしい。

 彼らの自我が残っているとは思えないが、腕に覚えがある人間ならば身体に染みついているであろうその動きは、とても戦い慣れしている者のそれでは無かった。

 故にだろうか、ヴァンクは彼らをあしらうように片付けていく。


 そしてヴァンクには、気づいたことがある。村長が普通の人間として振る舞っていたように、恐竜は人間に擬態することができる。

 全ての個体がそうであるという確証は得られていないようだが、少なくとも「そういう個体は特に珍しくもなく存在し得る」と、そう思った。


「クァァァァ!ウォァァァァァァ!」


 次から次へと狂竜を殺す。

 人っ子一人いなくなった村を、ヴァンクは夜明けを待つまでもなく村を蹂躙した。


「……ハァァ、ハァ……ァ」


 しかし、無意識のうちに全てを片付けたことに気づいたのか。

 急激に全身の力が抜けるような感触に襲われたヴァンクは、そのまま地面に倒れ伏す。


「スゥ、スゥ……」


 そしてすぐに意識も遠のいていった。

 すっかり身体も人間のそれに戻り、竜化で服が破れてしまったヴァンクは裸のまま、すっかり焼き尽くされてしまった村の中心で気絶する。

 その口角は下がったまま、狂竜への嫌悪を胸に抱きながら。

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