北海道らしい美味しい料理

 あの後、アキたちに確認したら、自分の家の近くではたき火はダメだが、近くに人間がときどきやってきて野宿する場所があるとのこと。歩いてすぐの場所だったので、コロポックルたちをリュックや胸ポケットに入れロードバイクを押しながら、野宿場所と言っていたキャンプが出来る場所に向かった。ラッキーなことに今日は伊吹たちだけだのようだ。

 たぶん人は来ないと思うが、念のため一番端の目立たない場所に小さなテントを組み立てる。今夜はこのままここに寝ようと、寝袋も出しテントの中に置いてテントを閉める。


 料理を始めるか、と、スーパーで買ってきた食材を取り出そうと、リュックを開けた。

 そんな伊吹の様子をナツ、アキ、フユのまんまるの6つの瞳が一挙手一投足逃すまいと、動く度に目で追いかけてくる。苦笑いをしながら、こんなにキラキラとした期待の眼差しを向けられたら腕を振るわずにいられないと、気合いを入れ直す。

 スーパーで買ってきた野菜と豚バラと鮭の切り身と、ロードバイクに積んであるフライパンを出す。


 買い物をするときにアキに嫌いな物はないかと尋ねてみたが、好き嫌いはないとのことだったので、伊吹が今食べたいものを作ることに決めた。もしかしたら、好き嫌いがわかるほど食べたことがないのかもしれないが、きっと他の2人も好き嫌いは無いだろう。ということで、本日のメニューは北海道といえば、の料理だ。


 石の上に折りたたみのまな板を置き、そこに洗った長ネギ1本を置き、5センチ幅のぶつ切りにする。切った長ネギに豚バラを巻いてフライパンに並べる。高かったけれど、アスパラも購入したので同じように切って豚バラを巻く。軽く塩こしょうをふり、火の上にフライパンを載せる。


 焦げないように時々見ながら、次の料理に移る。

 焼き終わるまでに野菜を切ろうと、四分の一にカットされていたキャベツを取り出し、ざく切りにする。本当なら一玉買った方が安いのだが、荷物を極力減らしたい伊吹は、コストパフォーマンスは悪いが、1回で食べきるか、翌朝に食べ終わるかの量しか購入しない。今回のキャベツも、しかたがなく四分の一サイズを購入したのだ。余っていたタマネギ半分とにんじんをくし切りにする。カットしめじも準備する。

 一通り、2品目の野菜の準備が終わると豚の脂の香ばしい、食欲のそそる匂いがしてきた。


「豚バラ、やっぱ最高だな」


 焼き目を確認して、一旦皿に出す。そして、豚の脂を軽く拭いて、次は切った野菜をすべて入れた。炒めている最中に、鮭の切り身をパックに入ったまま、両面に塩こしょうを振る。フライパンの真ん中をあけ、そこに鮭の切り身を1切れ投入する。鮭を動かさず、野菜をかき混ぜながら、焼き色をつくのを待つ。そして、焼き色が付いたら鮭をひっくり返した。

 ナツ、アキ、フユは、美味しい匂いにつられ伊吹のそばまで寄ってきて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、どうにかしてフライパンの中を見ようと格闘をしている。


「危ないって」


 火の側での危なっかしい様子に、フライパンの中に箸を置いたまま1人ずつ掴んで、少し離れた場所に置く。


「意地悪っ」

「どうして遠ざけるんですか! 私たちのごはんですよ?」

「横暴です!」


 3人からブーイングを受けた火の前に戻った伊吹は、箸を手にコロポックルの方へ振り返った。


「お前たち、焼けて死んでも……、いや、消滅か? してもいいのかよ。俺はな、心配してだな」


 ふくれた顔をしていたコロポックルは、伊吹の言葉に「それなら、しかたがないですねぇー」と、大人しくなる。

 その姿に、フッと伊吹は笑った。


「もうすぐ出来るから、待ってろ」


 そう告げると、フライパンに向き直る。ニンニクと味噌と砂糖とお酒を混ぜた合わせ調味料を回し入れ、フライパンの蓋の代わりにアルミホイルで蓋をする。

 その間に百均で購入した、弁当用アルミカップと爪楊枝を出す。豚バラのネギ巻きと豚バラのアスパラ巻きを、コロポックルが食べやすいサイズに切ってアルミカップに乗せる。爪楊枝もちょうど良いサイズに折って突き刺した。

 コロポックルサイズの食べ物を用意していたら、そろそろ出来上がったかもしれないと、アルミホイルの蓋を取る。一気に湯気が立ち上り、甘い味噌の香りが漂う。鮭のちゃんちゃん焼きの出来上がりだ。ぐぅ~と、お腹が鳴る。これはフライパンのまま持っていって、あとで取り分けようと考える。

 火が消えるまで見届ける必要があるため、テントから火が見える場所を陣取り、石の上にフライパンを置く。

 コロポックルたちも伊吹が敷いたタオルの上に、行儀良く座った。


「まずはこれな」


 一人一人にアルミカップを渡す。少し冷めてしまったが、まだ美味しいはずだ。

 渡されたカップの中の爪楊枝を器用に使い一口ほおばる。両頬が膨らみ、目を見開くコロポックルたち。


「「「う、うぅん~っ」」」


 声に鳴らない声を出していた。

 その様子に嬉しそうに声を掛ける。


「旨いか?」


 首振り人形のごとく、高速で頷くナツ、アキ、フユ。可笑しそうに笑った伊吹は、フライパンの中身をコロポックルが食べやすいように崩す。


「ほら、開いた入れ物くれるか?」

「はい」


 食べ終わった順番にアルミカップを渡してくる。どのくらい食べるかわからなかったが、カップの八分目くらいまで入れて戻した。


「これ、鮭のちゃんちゃん焼き。北海道の郷土料理だってさ」


「へぇー」と、感心したように、コロポックルたちは食べ進める。人間の郷土料理で、コロポックルが知らないのは当たり前かもしれないな、と思い直す。伊吹も、自分の皿に取り、口に入れる。甘辛くて、美味しい。ここにごはんがあったら最高だな、と思う。おにぎりでも買ってきたらよかったな、と後悔した。

 あの後、コロポックルたちは、おかわりをして料理を堪能したのだった。



 満腹になった後、後片付けも終わらせた伊吹は、今は火が消えるのを待ちつつ、これからどうしようか、と4人で考えていた。

 やっぱり、何を埋めたのか気になるから掘り起こすことは確定なのだが、どのタイミングで掘り起こすのか議論されていた。夜中が良いのではないか、でも、車の人がやってくるかもしれない危険がある。日中はどうだ? 人が絶対来ないと言い切れるのか、来たとしてやり過ごせるのか……等々。


 ナツやフユも、アキに話を聞いてから、数回時間を変えて見に行ったらしい。日中に人間に出会うことはほぼなく、夜中に数回車を見たとのことだった。総合的に判断すると、やはり昼間か、人が起きる前の早朝のどちらかがいいのかもしれない。

 頭の後ろで手を組み、ゆらゆらと前後に体を動かしながら考える。


「なぁ、お前たちはどう思う?」

「夜中は止めておいた方がいいと思います。あの車が来る可能性もありますし」


 そうフユが言えば、他の二人も同意する。


「じゃあ、昼間はどうだ?」

「他の人に感づかれる可能性があるかもしれません。人間の生活時間ですし」

「消去法で、早朝か」


 伊吹の言葉に三人が強く頷く。


「じゃあ、明日の朝、決行しよう。俺とアキは小屋までいく。ナツは林の入り口、フユは穴の家に。もしも、俺らが戻ってこなかったら、ビャクに手紙を書いて届けてくれ」

「なんて書くんですか?」


 フユがたずねる。


「『伊吹が帰ってこない』ってだけでも伝わると思う」

「わかりました」


 そう言うと、フユが神妙そうに頷いた。


 明日の早起きに備えて今日はこのままナツ、アキ、フユと同じテントで眠ることに決めた。火が消えたことを確認した伊吹は、3人を引き連れテントの中へと入っていったのだった。

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