第25話
部屋から出るとシャロンは面倒そうに嘆息した。
「ふりだしに戻ったわね」
ローレンスは不思議そうに「と言うと?」と聞き返した。
「サイラスが言ってたでしょ? 魔方陣は描いてない。酒も飲んでない。あれが真実ならまだ他に誰かが来ていることになるわ」
「また嘘をついている可能性は?」
「十分考えられるわね。ただし魔方陣についてはないわ」
「なぜ断言できるんですか?」
「彼には描けないから。魔法というのはいくつもの体系があるの。そしてそれは文化や風土に根付いている。あの魔方陣は彼の系統ではないわ。それはあのへんてこな機械に刻まれていた魔法文字から見ても明らかよ。あれが他の魔法使いが作ったものだとしても、責任者として理解できる体系で作らせるはずだから」
「でも魔方陣は描きかけだったんでしょう? 得意じゃない体系だから完全に描けなかったのでは?」
「言ったでしょう? 描きかけだって。きちんと描けば使えるものなの。くだらない魔法だけどね。だから魔方陣は彼が描いたものではない。でも彼が置いた可能性はある。描いてなくても持ってくることはできるから。でも相手を怒らせる可能性がある描きかけのくだらない魔方陣を持ってくる理由はビジネスを重視する彼にはない。だからサイラスと魔方陣は関係がない可能性が高いわね」
シャロンは「だけど」と続けた。
「分かっているのはそれだけで彼がスパイかどうかは分からないし、二度部屋を訪れた可能性がある限り実行犯でないとも言い切れない。もしかしたら部屋に行って準備を終え、仲間にシモンを殺させた可能性だってあるわ」
「……つまりはなにも分かってないということですね」
落胆するローレンスに対し、シャロンは呆れていた。
「せっかちね。焦ってもなにも変わらないわ。少しずつ情報を得て、論理を組み立て、場合によっては補完する。そうしたことを繰り返すしか問題を解決する術はないわ。難問は特にね」
その通りだ。その通りだが我々には時間がない。三日しか与えられてない今、一日目に犯人の目星すら付けられていないどころか嘘が混じり、更に混乱している。
急がば回れなのは分かっているが、心はそれを許してくれなかった。
シャロンはサイラスの部屋に振り向くと左右を見た。
「さあ。次は誰のところに行こうかしら」
少し考えたあと、シャロンは左手にあるロバートの部屋へと歩き始めた。
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