第34話 大人

 俺は自分の目を疑った。


 メッセージの相手はネムで間違いないか。


 何度確認しても相手はネムだった。


 メッセージを確認する。


『りゅうじは、ダンジョンへの許可もらった?』


『もらったなら、一緒に行かない?』


 上にあるメッセージを確認すると、俺の黒歴史になりつつあるメッセージがしっかり残っていた。


 だから、ネムからのメッセージで間違いない。


(どうして?)


 もしかして、嫌では無かった?


 いや、それは自分にとって都合がよすぎる解釈か。


 いずれにせよ、ネムともう一度ダンジョンへ行く機会があるなら、その機会を大事にしたいとは思う。


 ――でも、また何かやらかしてしまうのではないか?


 そんな考えが頭を過り、二の足を踏んでしまう。


 十数分の熟考の末、俺は自制する覚悟を持って、ネムにメッセージを返す。


『いいよ。俺も許可をもらったから、行こう』


 返信は一時間後くらいに来た。


 返信が来たことに安どしながらメッセージを確認する。


『良かった。軽井沢ダンジョンはどう? 今はそこしかない』


『わかった。でも、杭打がいるかも』


『あそこは大丈夫。行けばわかる』


『了解。なら、軽井沢ダンジョンで。いつにする?』


 それから俺は、ネムと時間や集合場所の調整を行い、その日はすぐに眠った。


 もしかしたら夢を見ているのかもしれないと思って。


 そして次の日。


 目覚めると、すぐにスマホを開き、夢ではなかったことを確認し、俺は軽井沢に向かった。


 ――数時間後。


 俺の前に軽井沢ダンジョンが現れる。


 軽井沢ダンジョンは、今まで参加したどのダンジョンよりも人の数が多く、物々しい雰囲気に包まれていた。戦車などもあって、臨戦態勢である。それほど、このダンジョンは警戒されていた。


 ネムとはダンジョン前で会うことにしていたので、ダンジョン前へ行くために受付で諸々の手続きをする。


 その際、ギルドの職員に嫌な顔をされた。


「まだ、あまり経験がないのですね」


「はい。あ、でも、ヌシは倒しましたよ」


「キングゴブリンですか?」


「はい。そうです」


「なるほど」


 俺からしたら強敵だったが、目の前のギルド職員にとってはモブに過ぎないようだった。


(なら、あんたは倒せるのかよ)


 と思ったが、口にはしない。


 不毛な議論になるだろうし、彼は俺の活動歴も気にしているようだったから。


 そして、タブレットに映っているだろう俺の情報とにらめっこしていた職員は、最終的に「わかりました」と言って、俺の書類を受け取った。


「あなたの参加を認めます。が、絶対に他の人とパーティーを組んでくださいね」


「わかりました」


 俺はダンジョン前へと向かう。


 そこには、アイテムを保管しているトラック型のアイテム車両がずらりと並んでいた。


 今までのどのダンジョンよりも多くのアイテムを選択することができ、中にはレアリティの高そうなアイテムもあった。


(せっかくだし、高そうなやつを使ってみるか)


 しかし、経験の浅い俺がレアなアイテムを使用することに、ギルド職員が難色を示した。


 だから、空気を読み、『氷の杖』、『楔帷子』、『黒魔導士の帽子』、『黒魔導士の黒衣』、『黒魔導士のブーツ』、『丈夫な布袋』で攻略に挑むことにした。


 氷の杖を選んだ理由は、このダンジョンに出現するモンスターには、氷が効くとの前情報があったからだ。


 また、このダンジョンでは、ポーションや魔力ポーションなどの回復系アイテムの支給量が多かった。たくさんのモンスターを倒しているため、この手のアイテムが多くなっているらしい。


 準備を整え、ダンジョンの入口へ向かう。


 そこでネムと会うことになっていた。


 入口まで来て、ネムの言っていた意味がわかった。


 このダンジョンに関しては、出陣式というものはなく、自由に冒険者が出入りできるようだった。


 ダンジョンから出てきて、そのまま救護室へ運ばれていく冒険者の姿もあり、現場はピリピリしていた。


 その空気感で昔の職場を思い出し、軽いめまいを覚えてしまう。


(早く来ないかな)


 ネムはほどなくして現れた。


「お待たせ、竜二」


「あ、うん」


 ネムは前回と同じ地雷系のゴスロリファッションで、腰に魔法剣を佩いていた。


 いつもと同じネム――と思ったが、ネムが神妙な顔で見てくるので、戸惑う。


「どうかした?」


「……その装備、自分で選んだの?」


「うん。まぁ」


「いいんじゃないかな」


 ネムがグッと親指を立てたので、俺は自分の口元がゆるむのを感じた。


 ネムは――大人だった。


 公園での俺の粗相なんて気にしていない様子。


 俺としてはありがたい。


 このまま、前のことなんて無かったことにして、彼女とダンジョン探索を楽しみたいと思う。


「それじゃあ、行こう!」


「ああ」


 そして俺たちは、現状最難関のダンジョンへ足を踏み入れた――。

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