第27話 二人だけの冒険②
「見ててね」
ネムは俺にウインクすると、剣の刃を撫でた。
ネムが撫でたところから火が上がり、剣が炎に包まれる。
ネムは炎の剣でツノウサギに斬りかかった。
ツノウサギは、その攻撃を避け、そのまま逃げだす。
「あ、待てっ」
ネムはツノウサギを追いかけ、剣を振るった。
瞬間。炎の斬撃が放たれ、ツノウサギの頭上をかすめた。
斬撃は地面に当たり、炎の壁となる。
ツノウサギは慌てて切り返し、炎の壁への衝突は免れたが、追いついたネムに首を斬られた。
そのまま地に伏せ、わずかに痙攣した後、光の泡となって消えた。
ネムがどや顔で振り返ったので、俺は讃えるように拍手した。
「ネムもすごいね」
「でしょ。この調子で、どんどん探索していこう!」
「ああ!」
そして俺たちは、二人だけの冒険を続けた。
最初は、ターン制で交互に戦うようなやり方を採用していたが、あるモンスターとの戦いをきっかけに、コンビネーションを意識するようになった。
そのモンスターとは、ヒトクイオオワシである。成人男性ほどの大きな鳥で、目が三つあり、鋭いを爪を有している。危険度は、ネム曰くC。
ネムが一羽のヒトクイオオワシと戦っていると、その背後からもう一羽のヒトクイオオワシが迫った。
それに気づいた俺が、すぐに火球を放ち、もう一羽のヒトクイオオワシに当てた。
ヒトクイオオワシは一度宙に逃げ、ネムと戦っていたヒトクイオオワシも宙に逃げて、何か相談するかのように上空で並んだ。
俺とネムも地上で並び、確認する。
「どうやら、俺たちもコンビで戦った方が良さそうだな」
「そうだね! じゃあ、こうしよう――」
ネムから作戦を耳打ちされ、俺は頷き、テニスのダブルスのような位置取りで、ネムの後ろに立った。
前衛と後衛の関係。
俺は上空にいる二羽のヒトクイオオワシにチャラ男を重ねる。
すると、ぶん殴りたい衝動に駆られる。早く、あいつを殴りたい。
その期待に応えるように、チャラ男Aが俺に向かって飛んできた。
中々速い。俺はけん制のつもりで火球を放つ。
チャラ男Aはその火球を避け、なおも俺に向かって飛んできた。
俺は動けない、いや、動かないが正しいか。
チャラ男Aの鋭い爪が俺を襲いそうになる瞬間――ネムの炎の斬撃がチャラ男Aを襲う。
「ぐわぎゃぁ」
チャラ男Aは宙でもがく。
と同時に、チャラ男Bがネムに向かって、突撃しようとしているのが見えた。
今は、ネムがチャラ男Bに背中を向けている状態。
チャラ男Bは今がチャンスと思っているに違いない。
その間抜け面に、俺が素早く放った火球をぶち当たる。
「ふぎゃらぴ」
予想外の一撃だったのか、チャラ男Bは地面を転がり、悶える。
その隙を逃さず、ネムが斬りかかる。
チャラ男Aは、杖で届く距離にいたから、ぶん殴って叩き落とした。
当然、魔法を発動し、爆発で腹の肉がえぐれる。
地面に落ちてもがくチャラ男Aを、俺は容赦なくぶん殴った。
三回くらい魔法をまじえて殴ったら、チャラ男はヒトクイオオワシに戻っていた。
ネムに視線を向けると、ネムもしっかり倒すことができたらしい。
俺の元へ駆け寄ってきて、ハイタッチを交わす。
「やったね!」
「ああ」
「次からもコンビネーションを意識して戦った方がいいと思ったんだけど、どうかな?」
「俺もそう思う」
「なら、そうしよう」
こうして俺たちは、コンビネーションを意識して戦うようになった。
そして、俺たちの相性は、控えめに言って良かった。
どちらも遠距離攻撃と近接攻撃が可能なので、囮役となって引きつつ、もう一人が遠方からモンスターを狙い、モンスターに隙ができたら近接で止めを刺すといった戦略を採用することができた。
このことは、ネムも感じていたらしく、笑顔で言われた。
「ネムたちは、相性が良いかもね」
「そうだな」
「にしし。やっぱり、ネムの勘は正しかった」
ネムの笑顔を見ていたら、勘違いしてしまいそうになる。
しかし俺は、わかっているから、勘違いしたりはしない。
あくまでも、冒険者としての能力を評価してくれているのだ。
そうやって、コンビネーションを高めていくうちに、お互いのことを知る機会も増えた。
「え、竜二ってスキルカードを持ってるの?」
「うん。『腕力プラス』のカード。初回でキングゴブリンを倒したから」
「え、すごいじゃん!」
「ただのまぐれだよ。ビギナーズラックってやつ。でも、ネムだって、持っているんでしょう? スキルカード」
「まぁね。『魔力プラス』しか持ってないけど。しかも、これを入手できたのは、冒険者になってから、一年くらい経ってからだから、やっぱり竜二はすごいよ」
「……ありがとう」
リョーマたちのことが頭を過る。このスキルカードは彼らのおかげでもあるから、素直に喜んでいいかは難しいところだ。
また、ネムがゴスロリを着ている理由はわかった。
「これは、ランキング3位の渋沢さんに憧れて。一度、一緒になる機会があって、それでハートを射抜かれたと言うか、とにかく、ネムも渋沢さんみたいになりたいなと思って、こういう恰好をしているの」
「へぇ」
ランキング3位は、黒いドレスでダンジョンを探索していると聞いたことがある。
どれほどのものか、俺も一度経験してみたいところだ。
「でも、その服は、防御力的なところで問題ないの?」
「うん。中にいろいろ着こんでいるからね。見る?」
ネムがスカートをつまむので、俺は目を逸らした。
いたずらだとわかっていても、慌ててしまう。
「見ないよ」
「にしし。竜二なら、そう言うと思った」
それは異性としての評価として良いのか悪いのか。
深く考えないようにする。
それから、適度にポーション休憩をはさみつつ、ダンジョン探索を続けた。
そして、徐々に空が橙色に染まり始める。
このダンジョンは、外の時間と連動しているため、外も夕方の時間帯になっており、冒険者が帰り始める時間だった。
俺は、その空を見て、感傷に浸る。
本音を言えば、このままダンジョン探索を続けたい。
帰ったら、杭打との面倒なトラブルが発生することが容易に想像できる。
ただ、そんなことよりも、もっとこの時間を楽しみたいという強い気持ちがあった。
ネムがおもむろに口を開く。
「……ねぇ、竜二。帰る?」
「ああ。まぁ。でも、帰りたくないのが本音かな」
「良かった。竜二もそう思っていたんだね」
「ってことは、ネムも?」
「うん。じゃあ、探索を続けますか!」
「ああ、そうしよう」
俺たちは互いに見合い、笑みがこぼれた。
そして、日が沈む山々に向かって、歩き出す――。
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