第25話 再会②
「よろしくお願いします。山村さん」
「ネムで良いよ。ってか、ネムが良い。あと、そんな固い話かたじゃなくても大丈夫。ネムもこの感じで接するからさ」
「……わかった。よろしく、ネム」
「うん! それじゃあ、武器を選ぼうよ」
「ああ」
俺たちは武器庫へ入った。俺が杖を選んでいる間、ネムは剣を探していた。その後ろ姿を見て、俺は気になることがあった。
(あの服で行くのか?)
ゴスロリにしか見えない恰好だが、あれでモンスターの攻撃とか防げるのだろうか。
ネムが振り返り、目が合う。俺はすぐに目を逸らした。見ていたと思われるのが恥ずかしかったからだ。
「どうかしたの?」
「あ、いや、今回のダンジョンはどんな武器を使えばいいのかなって」
我ながらナイスな言い訳だと思う。不自然ではないことだし、アドバイスも貰える。
「ああ。それなら、無難に『炎の杖』とかがいいんじゃないかな。草原型のダンジョンだと、火を苦手とするモンスターも多いからね」
「わかった。ありがとう」
俺はネムの助言に従い、『炎の杖』を手に取る。
周りに火が移ったらどうする! ――と憤慨する杭打の姿が思い浮かんだが、ここはネムを信じる。
ネムも剣の選定を終えたらしく、得意げな表情で剣を一本、腰に佩いた。
「ネムはどんな剣を選んだの?」
「『魔法剣』。魔力を流すことで、魔法が使えるの」
「へぇ。そんな剣があるんだ」
ネムは、さらに鍋の蓋くらいの盾を手に持った。
そのとき、外が騒がしくなった。杭打たちの気配を感じ、ネムと目配せする。俺たちは頷き、すぐに外へ出た。
二人でダンジョンへ向かう。その道中で、少しだけネムのことを知ることができた。
「ネムは、今まで何回くらいダンジョンを攻略したの?」
「回数にすると、難しいな。冒険者としては、二年くらいやっている」
「へぇ。そんなに、やっているんだ」
「一応、ランキングは30位」
「マジ!? めちゃくちゃすごいじゃん」
「へへっ、まぁね。竜二はどれくらいやってるの?」
「今回で三回目。前回は一日で帰ったから、実質、二回目みたいなもん」
「ふーん。なら、大先輩であるネムにいろいろ聞いてね」
「はい。頼りにしていますよ、先輩」
「そういえば、前回は一日で帰ったと言っていたけど」
「うん。ネムに言われたことが気になってね。嫌いな人間とは一緒にやらないってやつ。それで、その方がいいなと思ったから、その日のうちに止めたんだ」
「そうなんだ。なんか、ごめんね。ネムのせいで」
「まぁ、嫌な思いをせずに済んだから、ネムには感謝しているよ。きっと、あのまま続けていたら、冒険者が嫌になっていたかもしれないし」
「そっか。そう言ってもらえると嬉しい」
「だから、気になったんだよね。ネムが、どうして今回はこのダンジョン攻略に参加しようと思ったのか。杭打を見た瞬間、帰ると思ったんだけど」
「あぁ、うん。まぁ、竜二のことが気になったからかな」
「え」
「あ、いや、その冒険者として。何となく、これはネムの勘なんだけど、竜二は冒険者として、特別なものを持っているんじゃないかって思ったんだよね」
「……ありがとう」
今まで、そんなことを言われたことは無かったから、こそばゆく感じるほど嬉しい言葉だった。気恥ずかしさを隠すように前方へ視線を向けると、緑の茂ったダンジョンの入口が俺たちを迎える。
俺たちは、入口の前に立って、背の高い植物を見上げる。高さは約二メートルくらいか。この群落を抜けた先に、ダンジョンがあるなんてまだ信じられない。
「先に言っちゃおうか」とネムが声を潜める。
「え、いいの?」
「止められるだろうけど、やってみるのはタダだから」
「う、うん」
ネムに言われるがまま、俺たちはダンジョンへの入構を試みる。――が、ギルドの職員に止められる。
「すみません。こちらのダンジョンへの入構は、出陣式が終わってからになります」
「……はい」
俺たちは渋々戻る。顔を見合わせて、「やっぱり駄目だったか」とネムは苦笑した。
「そうだね。でも、どうする? このままじゃ、杭打たちと一緒に行動することになるけど」
「うーん。そうだな。ちょっと考えさせて」
「わかった」
思案顔になったネムの隣で、俺は時間が来るのを待った。
ぼちぼち他の冒険者も集まり始め、杭打の集団もやってくる。
(まぁ、ここまで来て、帰るわけないよな)
すると、一人の男がやってきた。その男に見覚えがある。名前は知らないが、杭打の仲間だ。見た目が見た目がチャラチャラしているので、便宜上、チャラ男と呼ぶ。
チャラ男は俺なんかに目もくれず、ネムに話しかけた。
「ネムちゃん。久しぶり」
しかしネムは、チャラ男を一瞥するだけで、ガン無視。俺なら心が折れてしまいそうだが、チャラ男は折れることなく、話し続ける。
「前はごめんね。いつか、ちゃんと謝りたいと思っていたんだけど」
それでもネムは無視。二人の間に何かあったらしく、それは、少しだけ気になった。
ネムが無視し続けるので、チャラ男も諦めたように肩を竦める。
「改めてごめんね。でも、汚名を返上できるように頑張るから、今日もよろしくね!」
チャラ男はその言葉を残して、去って行った。
俺はネムに視線を戻す。そこでネムの手が少し震えていることに気づいた。
「……ネム。あいつと何かあったの?」
本当は聞くべきじゃないと思ったけど、聞かずにはいられなかった。
「……前に一緒に、ダンジョンを攻略する機会があって、そのとき、あいつ、どさくさに紛れて、ネムの胸を触ってきたの」
「え」
「しかも、それだけじゃなくて、ずっと近くにいて、話しかけてくるし、何て言うか、ウザいを通り越して、怖かった」
「そんなことが」
ダンジョンを出会いの場か何かと勘違いしているのだろうか。
今すぐにでも、その耳を掴んで説教したいところではあるが、俺にそんな勇気は無く、チャラ男の背中を睨みつけることしかできない。
それに、ネムに掛けるべき言葉もわからなかった。
ネムを励ましたい気持ちはあるが、それをうまく言語化できない。
「あいつ最低だな」とか、「やっぱり、あの連中はゴミの集まりだな」とか、奴らを卑下する言葉ならたくさん思い浮かぶ。
しかし、それらの言葉でネムの気持ちに寄り添うことができるとは思えないし、安易な励ましや共感の言葉は彼女をより傷つけるだけだと思った。
だから俺は、唇を噛んで、自らの不甲斐なさを恥じることしかできない。
「――決めた。」
ネムは力強い瞳を俺に向ける。
「竜二。出陣式が終わったらさ――」
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