第18話 霞ヶ浦ダンジョン①
その電話はバイト中に突然掛かってきた。
商品の配達中だったし、知らない番号だったので、出ようか迷ったが、自転車を止め、とりあえず出てみた。
「もしもし」
「あ、もしもし。宿須さんですか?」
「はい。そうですが」
「どうも、こないだ問診をした崎本です」
誰? と思ったが、問診という言葉から、健診で診てもらった医者の顔を思い出す。眼鏡を掛け、頬がこけていた。流れ的に、多分、彼だと思う。
「あぁ、はい」
「あれから何か体に異常とか、気になるところとかありましたか?」
「いえ、とくにはないです」
「そうですか。なら、諸々の手続きとかは、こちらで対応しておくんで、明日からダンジョンに行って大丈夫ですよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「それではお気を付けくださいー」
電話が切れた。ダンジョン攻略の参加許可が、思っていたよりも呆気なかったので、少々驚いてしまった。もう少し、面倒な手続きとかがあると思っていたが。
(……まぁ、いいか)
俺としては、ダンジョン攻略に参加できるなら、何でもよかった。
バイトを切り上げると、俺はギルドのサイトにアクセスして、攻略中のダンジョンの情報を得る。
今、参加できるダンジョンで、比較的近場にあるのが、茨城の『霞ヶ浦ダンジョン』と長野の『軽井沢ダンジョン』だった。
どちらも何回か攻略が行われているらしく、霞ヶ浦ダンジョンの方は難易度がDに設定されていて、軽井沢ダンジョンの方はSに設定されていた。
軽井沢ダンジョンの『難易度:S』を見たとき、俺は自分の目を疑った。
詳細を追ってみると、かつてアマゾンに災害をもたらしたダンジョンと同じタイプのダンジョンで、『ドラゴンの巣窟』と呼ばれている。
上位ランカーが参加しているものの、道を塞いでいるドラゴンが倒せず、苦戦しているようだ。
出現してから2か月ほど経っているみたいだが、まだ攻略の糸口が見つかっておらず、アマゾンで起きた豪雨が危惧されているらしい。
一方霞ヶ浦ダンジョンの方は、『水の洞窟』と呼ばれているダンジョンで、出現してから1週間ほど経ち、攻略も順調に進んでいるようだった。
(霞ケ浦の方に行ってみるか)
俺は今回の攻略で、特訓の成果を確かめたいと思っている。
だから、難易度の高いダンジョンだと、成果の確認どころではないかもしれないので、あえて難易度の低い『霞ヶ浦ダンジョン』に挑戦することにした。
(そうと決まれば、さっさと準備しよう!)
翌朝。
俺は始発の電車に飛び乗って、霞ケ浦を目指した。
乗り換えも含め、二時間ほどで目的の霞ヶ浦ダンジョンに到着した。
到着すると、すぐに受付を済ませる。
前回の参加で勝手がわかっていたから、前回ほど受付で苦戦することはなかった。
受付が完了したら、今度は武器と防具を借りる。
今回の武器は、水の弱点と言えば雷という安直な発想で、『雷の杖』を使うことにした。
防具については、『鎖帷子』を着て、その上に『黒魔導士の黒衣』を羽織り、『黒魔導士のブーツ』を履く。
いわゆる『黒魔導士シリーズ』と呼ばれているやつで、これらの防具を装備することで魔力の総量が上がるらしい。
(……でも、あんまり、増えたって感じがしないな)
着替えただけでは変化を実感できないが、ダンジョンに入ることで、実感できるようになるのだろう。
準備を済ませた俺は、ダンジョンの入口へと向かう。
霞ヶ浦ダンジョンの入り口は、霞ケ浦の畔にあった。
石の洞窟が湖から顔を出して、巨大な口を広げている。
辺りを見回すと、他に冒険者の姿はない。俺は一番乗りだった。
そのままダンジョンに入りたかったが、俺は渋々他の冒険者を待った。
1類の免許かつランキングが下位の俺は、制度上、他の冒険者と一緒に行動しなければならない。
三十分ほど経つと、今回の攻略に参加する冒険者がぼつぼつとやってきた。
その中に見知った顔が無いか探す。
リョーマたちと再会できることを楽しみにしていたのだが、再会したくない奴らを見つけ、胸が苦しくなる。
グレーの髪を撫でつけ、顎髭を生やした凛々しい顔つきの男――杭打たちが、このダンジョンにやってきた。
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