第13話 報酬

 報酬を受け取りに行く道中で、金髪たちが自分たちについて話してくれた。


 金髪のリョーマは言う。


「俺たちは中学んときからのダチで、高校んときは暴走族を結成してたんだ。これでも地元じゃかなり有名だったんだぜ」


「暴走族。それはすごいですね」


「そうでもないよ。地元じゃ、皆、族をやっていたさ」


「そうなんですね」


 この時代になっても、修羅の国が存在するのか。恐ろしいところだ。


「今も暴走族は続けているんですか?」


「いや、高校を卒業した4月に解散した。冒険者に専念したかったんでね」


「……なぜ、冒険者に?」


「まぁ、飽きていたっていうのもあるし、俺たちは、冒険者としてビックになりたいと思ってね」


 リョーマは、恥ずかしげもなくそう言った。


 その曇りのない眼に、俺の方が恥ずかしくなる。


 彼らほど真っすぐな気持ちで、何かに向き合ったことがないことに気づかされた。


 彼らは少し前まで高校生だったらしいが、俺よりも立派な大人に見える。


「あんたはどうして冒険者に?」


「え、あ、まぁ」


 何と言ったらいいのだろう。死ぬために冒険者になった――なんて、言えるわけがない。


 だから、「仕事に困って」と曖昧に答える。


 また、彼らは元暴走族だから怖いかと言えば、そんなことはなく、フレンドリーだった。


「俺たちは一緒にダンジョンを攻略した仲だから、そんな堅苦しい喋り方しなくていいよ」


 とリョーマに言われる。やはり、彼らの方が年上に思える。が、そんなことを言うのは無粋な気がしたので、俺は素直にその言葉を受け取った。


 最初に受付を行った場所に行くと、冒険者たちの列ができていた。受付で書類にサインすれば、報酬が貰えるらしい。


 どれくらいの金額になるのだろう。俺が疑問に思っていると、リョーマが同じ疑問を口にした。


「今回はどれくらいの金がもらえるのかな」


「ダンジョンの難易度が低かったから、期待できないだろうね」とソフトモヒカンのアヤセが答える。


 講習によると、報酬は以下の要因に応じた報酬金額の合計によって決まる。

 

 ① ダンジョン難易度

 ② 攻略の成否

 ➂ ランキング

 ④ 免許の種類

 ⑤ その他


 リョーマたちによると、今回は『ゴブリンの巣窟』と呼ばれる難易度が最も低いダンジョンに認定される可能性が高いため、①のダンジョン難易度による報酬には期待できない。


 しかし、一日で攻略できたので、②の攻略成否による報酬は高めに出る可能性はある。


 ランキングに関しては、100位以内に入らないと雀の涙ほどしかもらえないらしい。


 免許については、1類の報酬金額は2類のそれに比べ、3割ほど安くなっていて、その他の報酬金額については、ダンジョン内で見つけたアイテムを渡せば、上がるとのことだった。


(なるほど。アイテムを渡せば、その分金になるのか)


 ポケットを漁ると、空になった小瓶が一つだけ残っていた。瓶の底に『ポーション』と書いてある。


「もしも次の攻略を考えているなら、消費アイテムは自分で持っといた方がいい」とアヤセは言う。「武器や防具は、銃刀法違反とかで預けることになるんだけど」


「なるほど。火薬はいいの?」


 アヤセが鞄を開けて、火薬を取り出した。


 ダンジョン内では黒い粒が入っていたが、外で見ると空になっていた。


「瓶に入っている系のアイテムは、外に出ると空になるんだ」


「……なるほど」


 俺はポーションの小瓶をポケットにしまった。


 そして、今度ダンジョンに来るときは、アヤセのような鞄を持ってこようと思った。


「そういえば、俺たちがヌシを倒したのに、その分は出ないの?」


「倒した証拠がないからね。証拠があると、くれるんだけど」


「スキルカードならあるけど」


「ここでだせる?」


「……だせない」


「な。でも、次のダンジョンに入ったときに、ギルドの職員に見せれば、そのときに貰えるよ」


「なるほど」


 というか、スキルカードってダンジョン内なら出せることを初めて知った。


 俺たちの番になり、書類にサインして、報酬を受け取る。


 今回の報酬は――3万円だった。


「しょっぺぇな」とリョーマは不満げだった。


「まぁ、仕方ないよ」とアヤセ。「レポートとかしっかり書いて、ランキングを上げていけば、報酬も増えていくさ」


 レポートを書くことでランキングが上がることも初めて知った。


(いろいろと勉強不足だな)


 講習のときに話をちゃんと聞けばよかったと思う。死ぬことばかり考えていたから、内容が頭に残っていない。


(あとで資料を見返すか)


 その資料をちゃんと持ち帰っているかも怪しいが。


 受付に預けていた荷物を受け取ると、リョーマたちに声を掛けられた。


「俺たち、バイクで来ているから、家まで送るけど」


「ありがとう。でも、今は電車で帰りたい気分」


「そうか」


「見送りくらいはさせて」


「おう!」


 そして俺は、彼らを見送るため、近くの駐車場に移動した。


「本当に乗っていかなくていいのか?」


 リョーマが厳ついバイクのエンジンをふかしながら言った。マフラー音が大きい。さすが、元暴走族と言ったところか。


「ありがとう。大丈夫」


「そうか。んじゃ、またどこかのダンジョンで会った時はよろしくな」


「ああ。こちらこそ」


 リョーマたちは、ひときわ大きなエンジン音を鳴らすと、風のように去っていた。


 遠くなる背中を眺めながら、今度はどこのダンジョンに参加する予定なの? くらいは聞けばよかったかなと思う。


(まぁ、いいか)


 俺はそういうタイプの人間じゃない。


 寒い静かな駐車場で報酬が入った封筒を取り出し、中を確認した。


 諭吉が三人。リョーマの言う通り、仕事内容の割には、しょっぱい金額かもしれない。それでも、今まで稼いできたどのお金よりも、輝いて見えた。

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