第11話 生還

 俺はダンジョンで死ぬつもりだった。


 だけど、生きている。


 あの大きなゴブリンを倒し、生き残った。


 その結末に、俺が一番驚いている。


「すげぇじゃん、あんた!」


 そう言って、ソフトモヒカンが俺の肩を軽く叩き、気さくに笑った。


 褒められることに慣れていないから、「はぁ、どうも」と素っ気ない態度で返事をしてしまう。


「いやぁ、まさかあいつにあんな一撃を与えるとはねぇ。俺は同じオスとして、ゾッとしたけど」


 ソフトモヒカンは股間を握って、ぶるっと震える。


「……そうですか」


 俺はとくに何も思わなかった。


 ただ、やつを倒すために最善の手を尽くしただけだ。とくに股間が反応することもない。


「ナイスだったな」と金髪にも言われる。金髪も俺のそばに立ち、肩を軽く叩いた。


「あんたがいなきゃ、やばかったかもしれん。よく、あんな攻撃ができたな。普段からああやって戦っているのか?」


「いえ、今日が初めてのダンジョン攻略でした」


「……冗談だろ?」


「本当です」


「マジかよ。それでヌシを倒してしまうなんて、あんた只者じゃないな。すげーじゃん!」


 金髪――というより、ヤンチャな人間に褒められて、悪い気はしなかった。


 むしろ、カースト上位の人間に認められた気がして、誇らしい。


 とはいえ、今回の討伐は俺が一人でやったわけではないから、彼らに感謝する。


「まぁ、私も『火薬』が無かったら、あいつを倒せなかったと思うし、皆さんのおかげでもあります。ありがとうございます」


「確かに。俺らがいたからこそ、倒せたのかもな。わかってるじゃん」と金髪は冗談っぽく笑う。


「今回に関しては、お前はあんまり仕事をしていないけどな」と剃り込みが呆れたように言うと、金髪は「そんなことないわ!」と元気に反論した。


 いつの間にか、リーゼントと小太りの男もいて、剃り込みと金髪のやり取りで笑っていた。


 そんな彼らを見て、俺も自然と笑みがこぼれる。


 とりあえず、皆が無事でよかった。


 そして、自分が彼らのようなヤンチャな集団の輪にいる状況に違和感を覚える。


 今までなら、絶対にありえない状況だ。


「あ、そういえば」と俺はリーゼントのことが気になった。


「右肩は大丈夫なんですか?」


「ん? あぁ」とリーゼントは右肩を抑える。


「ポーションのおかげで、ある程度傷をふさぐことはできた。が、ちゃんと医者に診せる必要はありそうだ。全く、面倒なことになっちまったぜ」


「そうなんですね。お大事になさってください」


「心配してくれて、ありがとな」


「あ、いえ」


 リーゼントに感謝され、こそばゆく感じた。


 お礼の言葉を言われるほどのことをした覚えはないのだが。


(……なんか不思議な気分だ)


 ダンジョンに入ってから、自分にとっては意外なことが続いている。


 彼らとの関係だけではなく、狂戦士になったことだって意外なことだし、ダンジョンのヌシを倒したことだって意外なことだ。


 会社で無能扱いを受けてきた俺に、あんな力があったとは……。


 いろいろ思い返していると、「おい、お前ら」と声を掛けられた。


 目を向けると、グレーの髪を撫でつけ、顎髭を生やした凛々しい顔つきの男が立っていた。


 ダンディなおじさまといった感じ。


 一瞬、誰かわからなかったが、着ている鎧から何者かわかった。


 杭打である。後ろには、高橋などの仲間の姿があった。


 不穏な空気。俺は嫌な予感がした。


「お前らが、今回のヌシを倒したのか?」


「そうだけど」と金髪はぶっきらぼうに答える。杭打を警戒しているようだ。


「そうか……これだけは言っておく必要がある」


 杭打は、くわっと目を見開いて、言った。


「勝手なことをするんじゃない!」

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