第7話 初めての攻略
(でも、どうしようか)
パーティーから抜けることにしたものの、シンプルに「抜けます」と言っても、高橋が一般論で反論してくるのが容易に想像できた。だから、別の方法を考える必要がある。
(ほんと、面倒くさいわ)
俺にとっては、一般論者の方がゴブリンよりも厄介な存在だ。
そのとき、俺たちの前に分かれ道が現れた。
「こっちに行こう!」
高橋は、とくに相談することもなく、左側の道へ進んだ。
最後尾にいた俺は、立ち止まったまま気配を殺し、そのままやり過ごせるか試してみた。一人くらい気づくかと思ったが、誰も振り返らずにダンジョンの奥へと消える。
(……まぁ、誰にも相手にされないことには慣れているし)
今回は、そのことがプラスに働きそうなので、良しとする。
高橋たちが左の道へ進んだので、俺は右の道へ進む。
一人になったことで、心細くなったかと言えば、そんなことはない。むしろ、ワクワクが強くなった。ようやく、俺のダンジョン攻略が始まった。
しばらく歩いていると、前方から複数のゴブリンの声が聞こえ、闇の中に明かりが浮かぶ。
近くにあった脇道に身を潜め、様子をうかがった。松明を持った5体のゴブリンが、辺りを警戒した様子で過ぎていく。彼らは俺に気づいていなかった。
遠ざかる背中を眺めながら、俺はふと思う。
(『炎の杖』を試してみるか)
自分に魔法の杖への適性があるか知りたくなったので、脇道から出て、闇の中に浮かぶ明かりに、杖先を向けた。
(聞いた話によると、自分の中にある魔力を杖先の宝石に流せば、魔法が使えるらしい)
『魔力』なんてものを使ったことは無かったが、とりあえず、やってみる。
体内をめぐる『魔力』をイメージして、その『魔力』を手から杖に流した。
半信半疑だったが、体内から何かが流れ出る感覚があって、杖先の宝石が赤く光った。
瞬間――ボッ! と火球が出る。
反動で思わずのけぞってしまいそうになるが、踏みとどまって、火球を目で追った。
火球はまっすぐに飛び、ゴブリンの頭部に当たって、弾ける。
「ギィア!」とゴブリンが絶叫した。
残りのゴブリンが俺に気づき、松明を掲げて、駆け寄ってくる。
俺は再び杖を構えた。
先ほどは、軽い気持ちで撃ったが、しっかり狙おうとすると、緊張で手が震え、杖先もぶれる。
(――落ち着け、俺)
自分に言い聞かせる。
(やつらは全員、上司だ)
迫るゴブリンを見据える。
緑色の小鬼が、薄汚い上司の姿に変わった。
その瞬間、緊張は無くなって、渦巻く殺意が、俺に冷静さをもたらした。
(あんたには、炎上がお似合いだよ)
魔力を流し、火球を放つ。直撃。上司が吹き飛ぶ。もう一度魔力を流し、火球を放つ。これも直撃。上司の体が炎に包まれた。残りは2体。
俺は『木の棍棒』に持ち替えると、飛び掛かってきた上司の頭部をフルスイングで叩き割る。上司は残り一人。
しかし残った上司は、額に冷や汗を浮かべ、逃げ出した。その背中に火球をぶち当て、俺は上司――ゴブリンの群れを壊滅させた。
静寂が訪れる。
霧散するゴブリンの死体を眺め、俺は興奮した。
(魔法が使えるのか!)
魔法が使えるということは、自分は特別な人間だ。
自分の存在が認められた気がして、普通に嬉しかった。
(ん?)
そして、ゴブリンを倒した場所に落ちているアイテムにも気づく。
近づいて、確認してみると、それは緑色の液体が入った小瓶だった。
ご丁寧にも小瓶に『ポーション』と書いてある。
(聞いたことがある。こいつを飲むと、体力が回復するんだよな)
それはゲームの話とかではなく、冒険者の体験談として語られ、講習でもそのように習った。
ポーションを飲むと、軽度の怪我ならすぐに治り、疲労も消えるらしい。
そしてこのようなアイテムは、宝箱の中やモンスターを倒した際にドロップすると言われている。
(魔法が使えることがわかったし、ドロップしたアイテムも拾うこともできたし、上々の滑り出しだな)
不意に人の声が聞こえた。
先ほどのゴブリンとの戦闘を聞きつけたのかもしれない。
いずれにせよ、他の人と合流したら、また無駄な時間を過ごすことになる予感がしたので、俺はすぐにその場から離れた。
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