第34話 vsギャラゴ その2
「ふぅぅぅ。さんきゅートテトテ」
「キュポッ!」
巨人に踏まれるギリギリのところでトテトテが俺を咥えて走ってくれて助かった。周りはまるで台風の後のように木々がへし折れている。地面には巨大な足跡。ギャラゴは俺たちに興味を無くしたのか、死体の巨人はどこか別の場所に歩いていく。巨人が歩くたびに地面がズドンと揺れる。
周りを見回してもカプーヤの姿はどこにも見当たらない。俺は手を合わせた。
「死んだか。今までありがとうカプーヤ」
「勝手に殺さないでくださいよ! カプちゃん生きてますからねっ!」
「うおっ」
いつの間にかカプーヤが隣に姿を現していた。ああっ、例の魔法を使って隠れていたのか。
「その魔法なんなの? 姿を消せるのか?」
「んー当たらずとも遠からずって感じですね。正確に言うとカプちゃんの姿を認識できなくなる魔法なので、消えてるわけではないんですけども」
「魔法ってそんなこともできるのか。面白えな」
話している間にも巨人は遠ざかっていく。あいつどこに向かって……あっ。
「なあ、あっちの方向って」
「ユースラがありますね」
「やべえっ、追うぞ」
まさかあの巨体でユースラの街をめちゃくちゃにするつもりか?
巨人を追いかけて
「あの巨人を倒せば二匹目の巨人は作り出せねえ。どう思う?」
「カプちゃんもそう思います!」
巨人に追いつくと、俺はその右足に剣撃を射出した。半円の斬撃が飛んでいく。同時にカプーヤが左足を十字架でぶん殴る。ダメージは入ったように見えたが、すぐにその傷は死体や木々で埋まって見えなくなる。駄目だ、サイズがデカすぎて有効打が与えられねえ。
「おい、カプーヤ、なんか手はないのか? あるだろ、その十字架で良い感じに動く死体を倒す手段が」
「無茶言わないでくださいよ! 普通のアンデッドなら肉体を破壊するだけで倒せるんですよ。ああいうのには浄化魔法が有効ですが、専用の部隊でないと使えませんしね」
いかにもそういうのに効きそうな十字架を持ってるのに何もできないのか。その十字架は飾りか? と思ったが、もちろん口には出さない。しかし、顔には出てしまったらしい。カプーヤがこちらを指差して
「あー! その十字架は飾りか? って顔してますね! カプちゃんそういう風に失望されるの大っきらいなんですよ! 見ていてくださいよユツドーさん、カプちゃんの勇姿を! あんなでかいだけの動く死体、カプちゃんなら余裕なんですからねっ!?」
俺は何も言ってないのだが、カプーヤは勝手にヒートアップすると「ウオオオオオオッ!」と巨人に向かっていった。
まるで銃口を向けるように、カプーヤが十字架の先端を巨人に向けて構える。
一瞬、カプーヤの魔力が膨大に膨れ上がったように見えた。カプーヤの十字架、その長いほうの長方形の先端から、魔力の光線が撃ち出される。十字架本体よりも太いビームが巨人の胸を穿ち、大穴を開けた。俺は歓声を上げる。
「おおっ!」
あの十字架、あんな遠距離攻撃もできるのか。カプーヤは得意気にこちらを見てピースをしている。その後ろで巨人に空いた穴はみるみる塞がっていき、巨人が足を大きく上げる。
「おい、カプーヤ、後ろ!」
「うはははははっ! 見てくださいよユツドーさん、カプちゃんが本気出せばざっとこんなもんなんですよ! 次からカプちゃんさん様と呼んでくださいねっ! えっ、後ろ? …………グエッ」
カプーヤは巨人に踏み潰された。カプーヤを踏みつけて満足したのか、巨人はまた俺たちを無視してユースラのほうへ歩いていく。
流石に死んだか……。グロテスクな死体があることを覚悟して、俺はカプーヤが踏まれた現場に恐る恐る近づいた。地面は巨人の足跡でえぐれ、その中心部には大の字の穴が空いており、そこにすっぽりとカプーヤがうつ伏せでハマっていた。
頑張ってカプーヤを引きずり出すと、カプーヤは普通に元気だった。
「ふうっ、死ぬかと思いました」
「あれで無傷なの何なの? 頑丈すぎて怖いんだが」
気配を消せるし高火力だし高防御力だからスペックは高いんだよな。なんかいまいちなイメージが拭えないのは何故だろうな……。
さらに巨人を追いかけながら火球魔法も撃ってみるが、あまり効いている様子は無い。ただの死体の塊ではなく、たぶん攻撃した時に何らかの防御魔法が使用されているっぽいな。
こうなってくると打つ手がない。カプーヤが言う専用部隊でも連れてこないと無理か……とまで考えたところでふと思いついた。
「カプーヤ、アンデッドには浄化魔法が効くんだっけ?」
「ええ、その手の魔法の使い手は数が少ないですが……」
「それ、使えるかもしれん。巨人が歩いている先に温泉がある。そこに追い込むぞ」
この先に温泉があることを俺は知っていた。街道のコボルトたちを倒した時に入った温泉だ。あの時は商人たちにたいそう喜ばれたものだが、それがこうして役に立つとはな。
「たまには人助けもしてみるもんだなあっ、オイ!」
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