第22話 短剣生成魔法

 ユースラに来てから一週間ほどが経った。


 ユララと一緒に依頼をこなす、温泉に入る、手に入った金で飯を食ったり遊んだり宿に泊まったりする、という日々を繰り返している。温泉に入ることでレベルが上がり、新しい魔法も手に入った。現状のステータスはこんな感じだ。



【名前】湯通堂ユツドウジン

【レベル】21

魔法象徴シンボル】女神スパクアの紋章

【魔法】

 温泉魔法:レベル2

 天啓魔法:レベル1

 翻訳魔法:レベル2

 状態確認魔法:レベル1

 収納魔法:レベル2

 鑑定魔法:レベル2

 温泉浄化魔法:レベル1

 危機察知魔法:レベル1

 火球魔法:レベル1

 短剣生成魔法:レベル1

 剣撃強化魔法:レベル1

 従魔魔法:レベル1

 防御力強化魔法:レベル1

 毒防御魔法:レベル1

 麻痺防御魔法:レベル1



 収納魔法と鑑定魔法がレベル2に上昇した他、短剣生成魔法、剣撃強化魔法、麻痺防御魔法が新しく手に入った。


【短剣生成魔法:短剣を生成する】


【剣撃強化魔法:剣撃を強化する】


【麻痺防御魔法:麻痺攻撃を受けた際に麻痺になる確率を軽減する】


 レベルが上がり、新しい攻撃系の魔法も覚えたことで、この付近の魔物相手に苦戦することは全く無い。魔物は北に行けば北に行くほど強くなると言う。より高い報酬の依頼を受けるために、そろそろ北上するのもアリかもしれない。次の街に行くまでの食料や路銀も充分に貯め込めたことだしな。


 元々はエルニケ王国の王都に行くための軽い寄り道ぐらいのつもりだったのだが、少々長居しすぎてしまった。とにかくユースラは居心地が良いのだ。安宿とはいえ野宿とは比べ物にならないほど睡眠が快適だし、冒険者ギルドや料理屋にも顔見知りができた。ユララと二人での冒険も楽しい。


 これ以上にこの街に情が湧くと、旅出が辛くなるかもしれない。俺は出発に備えて旅の道具を買い揃えはじめた。


 あとは心残りがあるとすれば、ユースラで一番高い塔にある温泉宿の虹色亭に行けてないことか。あまりにも値段が高いので、ランクD冒険者の収入ではちょっと手が出そうにないのだ。


 そんな訳で俺は着々とユースラを出る準備を進めていたのだが、それをユララに言い出せずにいた。




 冒険者ギルドの裏側には、冒険者同士が特訓するための広い空き地のようなスペースが存在する。


 俺はそこでユララと木剣を打ち合っていた。短剣生成魔法を覚えたので魔物相手に短剣を使っていたところ、あまりの俺の剣の腕の下手さに見かねたユララが特訓しようと言い出したのだ。これは俺にとって大変助かる提案だったので、是非お願いすることにした。


「はあああああっ!」


 ユララの木剣が繰り出す重い斬撃を、同じく木剣で受け止める。最初のうちは間合いが掴めずに直撃していたが、ようやく距離感が掴めるようになってきた。そもそも剣が怖くて目を瞑ってしまっていた頃を考えると大きな進歩だ。


 とはいえ、まだまだユララには敵わない。何度か木剣を打ち合っているうちにユララの速度についていけなくなり、俺の足にユララの一撃が入る。魔力で防御しているので痛みは無いが、衝撃で思わず俺は尻もちをついた。


 見学していた顔見知りの冒険者たちから野次が飛ぶ。「ユツドー、情けねえぞおっ!」「ユララお嬢様、もっとやっちまえ!」「これは将来は尻に敷かれるなっ!」口は悪いが、話してみると気の良い連中だ。俺は苦笑しながら「うるせー」と返す。


 魔物との戦闘では俺もそれなりに自信があるのだが、対人戦では全くユララには敵わない。そもそも俺の戦闘能力はレベルの補正によるものが大きいので、ちゃんと戦闘訓練しているユララのほうが強いのは当たり前なのだが。


「大丈夫?」


 ユララが手を差し伸べてきたので、それを掴んで立ち上がる。


「だいぶ良くなってきたわね。ちゃんとあたしの剣を目で追えてると思う。戦闘で一番大事なのは、相手の動きをちゃんと観察することだから。それさえできれば、ジンはもっともっと強くなるわよ」

「おう、ありがとう。悪いな、俺の訓練に付き合わせちまって」


 ううん、とユララは首を振った。


「気にしないで。だって、あたしが剣を教えれば、ジンの旅にあたしの剣も一緒についていけるでしょ? それってとっても素敵なことだわ」

「……そうか。そうだな」


 もしかしたら、俺がそろそろユースラを出ようとしていることに、ユララは気付いているのかもしれない。何かユララに声をかけようとして、結局何も言えずに口を噤む。何を言ったら良いか分からなかったのだ。


「その、ユララ……」


 ユララと目が合う。髪色と同じく青く綺麗な瞳が揺れる。決心が鈍りそうになるが、それでも俺は別れを告げようとして、横合いからのいやみったらしい男の声に邪魔をされた。


「おいおいおい。女性に負けるだなんて情けない男だねえ。ユララも、僕の婚約者ということを自覚して、そんなカスに構うのは止めたまえよ」

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