第11話 通行料

 道中の池でキュポポチョウと一緒に水浴びをしていると、新しい魔法を獲得した。


【温泉浄化魔法を獲得しました】


 どうやら温泉の汚れを掃除してくれる魔法のようだが、用途が限定的すぎる。身体の汚れを落としてくれる魔法も早く手に入れば良いのだが。そう思いながらキュポポチョウに話しかける。


「キュポポチョウだからキュポポってのはどうだ?」

「キュポゥ……」


 お気に召さなかったようだ。一緒に旅をするのだから呼び名が無いと不便と思い、先ほどから名前を考えているのだが、こだわりが強いのかなかなかキュポポチョウが首を縦に振ってくれない。まあまんまるのシルエットなので首は見えないのだが。


 水浴びを終えて、キュポポチョウと一緒に町への道を歩く。地図によると目的地のユースラへはあと半日もあれば着く距離だ。たまにキュポポチョウがこちらに寄ってきて大きい身体を擦りつけてくるので歩きにくい。


 もふもふの羽毛の感触を楽しみながら、こいつ美味しそうだな、そういえばキュポポチョウって食えるのかなと考えてしまった。


「ヤキトリってのはどうだ?」

「キュポポポポポポッ!」

「ぐわああっっ!」


 非常食代わりにしようとした魂胆が伝わってしまったのか、キュポポチョウが烈火の如く怒ってくちばしで突いてくる。俺は逃げ回りながら、その後も名前を考え続けた。


 最終的に名前はトテトテに決まった。とてとて歩いてるところから決めた安直な名前だが、響きが気に入ったらしく、トテトテも「キュポッ!」と満足げだった。




「おお、あれがユースラか!」


 高く大きな石壁に囲まれた一角を見て、俺は感動の声を上げた。ようやくこの異世界の文明に触れることができそうだ。街を囲む石壁の向こうにはいくつかの塔のような高い建造物が顔を出している。前方には門のようなところから人が出入りしており、どうやらそこから街に入ることが出来るようだ。


 出入りしている人たちの見た目は、普通の人間に見える者もいれば、角や獣のような耳を生やしている者もいる。全く異なる種族でも和気あいあいと話しているところを見ると、この異世界は様々な種族同士の交流が盛んらしい。


 俺は早速ユースラに入ろうとして、犬のお巡りさんみたいな見た目をした獣人の門番に声をかけられた。


「冒険者の方だね? 通行料は百エルニケダラーだよ」

「つう……こう……りょう? エルニケ……ダラー……?」


 街に入るのに金がいるってこと? そんなことある?


 思わず固まってしまった俺を見て、ブルドッグみたいな顔をした門番は何かを察したように訪ねてくる。


「もしかしてお金が無いのかい?」

「はい……」


 アメリアには食料や魔石を分けてもらったが、金は一切貰っていない。街に着けば稼ぐ手段はあるだろうと思って俺も一切気にしていなかった。


 犬の門番が眉を顰めたので怒ったのかと思ったが、どうやら心配してくれているらしい。どうにか俺を街に入れる手段を考えようと質問攻めしてくる。


「街の中に家族や知り合いはいるかい?」

「いないな」

「ギルドに所属していたりはしないかい?」

「所属してないな」


 八方塞がりか、困ったように門番がバウッと唸った。俺としても街に入れないのは困る。収納魔法にしまった物の中から、金代わりになるようなものはないかを探してみる。


「魔物の死体があるんだが、これは金になったりしないか?」

「おおっ、いいね。冒険者ギルドか商人ギルドにいけば買い取ってくれると思うよ!」


 俺は安堵した。収納魔法にはホワイトウルフの他にも何匹かの魔物を保存してある。金を調達する目処がつきそうだ。


「助かるよ。その冒険者ギルドや商人ギルドはどこにあるんだ?」

「街の中だね……」


 俺は膝から崩れ落ち、門番が再びバウッと唸った。金が無ければ街に入れない、街に入れなければ金を調達できない。


 門番が慰めるように言う。


「ここより規模の小さい外壁の無い街だったら入場料がかからないから、そこでお金を手に入れてはどうだろう?」

「なるほど、ありがとう。ちょっと出直してくる」

「君の行く道に女神スパクアの加護があらんことを」


 街を目の前にしながら、俺は肩を落として引き返した。これからどうしようか。門番の話だと小規模な村や町なら入場料がかからないみたいだし、そこで資金を稼ぐのが良いかもしれない。


「トテトテはどうするのが良いと思う?」

「キュポ?」


 首を傾げるトテトテに話しかけながら考えをまとめていると、やたらと元気な声が聞こえた。


「そこのあなたっ! 話は聞いたわ! あたしの言うことを聞けば助けてあげてもいいわよ!」

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