第5話 状態確認魔法

 もう一つの水源も近くにあるらしいので、アメリアに案内してもらう。泥に塗れた身体を気持ち悪く思いながらも森林の中を歩くと、すぐに小さな池のようなものに辿り着いた。アメリアは池を指差した。


「魔力溜まりが見えますか? 魔力が扱えるようになったのなら、視えるようにもなっているはずです」


 よく目を凝らしてみると、たしかに池からオーラのようなものが出ている気がする。池だけではなく、その辺りの木々や植物からも似たような光が発せられていた。見えはしないが、空気にも魔力が漂っているのが感じられる。


「魔力ってのはその辺にあるものなのか」

「そこまで感じ取れるとは筋が良いですね。ええ、魔力は体内だけではなく世界そのものにも満ちている力です」


 俺は早速魔力の込もった池に入ってみることにした。アメリアの推理が正しければ、この池に入るだけで俺は魔法を獲得できるはずだ。何か役に立つ魔法が手に入るのを祈りながら、足から入っていく。


 池の水は驚くほど澄んでおり、泥水を落として身体を洗うのにも使えそうだ。水は少し冷たい。しかし、夏が近い季節なのか気温が高いため、水に入るのは苦にならない。身体を沈めて腰まで浸かったところで、メッセージが表示された。魔力の存在が分かるようになってから見てみると、このメッセージも空中に魔力の文字で描かれているのが分かる。


状態確認魔法ステータスウィンドウを獲得しました】


 当たりだ。ついに翻訳魔法以外の魔法を手に入れた。これからは魔力溜まりのある水辺を確認していけば、魔法をどんどん手に入れられるだろう。俺は弾んだ声でアメリアに結果を伝えた。


「ステータスウィンドウってのが手に入ったみたいだ」

「自分のレベルや使用可能な魔法を確認できる魔法ですね。本来は冒険者ギルドに行かないとステータスは確認できません」


 自身の状態ぐらいいつでも確認させて欲しいものだが、アメリアに文句を言っても仕方ない。ステータスウィンドウを使おうと思って、どうすれば良いのか分からず戸惑う。翻訳魔法はいつの間にか自動で使われていたので、俺が能動的に魔法を使うのは初めてだ。


「魔法ってどうやって使えばいいんだ?」

「通常なら魔法象徴シンボルを決めたあとに修行して初めて使えるようになるものですが……女神スパクアの恩恵ですし、使いたいと思うだけで使えるのではないですか?」

「やってみるか」


 俺はステータスウィンドウを使いたいと念じてみた。ステータスウィンドウ、ステータスウィンドウ。何度も念じてみると、あっさりと魔法の行使に成功する。


 俺の目の間に、魔力によって書かれた文字が現れた。



【名前】湯通堂ユツドウジン

【レベル】1

魔法象徴シンボル】女神スパクアの紋章

【魔法】

 温泉魔法:レベル1

 翻訳魔法:レベル1

 状態確認魔法:レベル1



「俺のレベルは1みたいだな。魔法にもレベルがあるのか」

「ええ。一般的には魔法は使い込むことで魔法レベルが上がっていきますが、ユツドーさんの場合はどうでしょうね。案外、泉に入ることでも魔法レベルが上がるかもしれませんよ」


 翻訳魔法のレベルが上がったらどうなるんだろうな。難しい単語も理解できるようになったりするのだろうか?


 ステータスウィンドウを眺めていると、知らない単語が目についた。


魔法象徴シンボルってなんだ?」

「魔法使いは魔法象徴シンボルと呼ばれる魔道具が無ければ魔法を使うことはできません。愛着があり、発動する魔法に関連するものを魔法象徴シンボルとして魔法使いは常に携帯する必要があります。例えば剣士の場合は剣の魔法象徴シンボルを持つ、という感じですね」


 昔見た映画で、魔法使いが杖を奪われて魔法が使えなくなったシーンを見たことがある。その魔法使いの杖に当たるものが魔法象徴シンボルってことだろう。そこまで理解してから、俺は首を捻った。


「……よく分からねえな。俺はその魔法象徴シンボルって道具を持ってないけど魔法が使えてるみたいだが」

「おそらくユツドーさんの魔法象徴シンボルはそれでしょうね」


 アメリアは俺の胸元を指差した。そこには、生前には無かった燃え盛る炎のような黒いタトゥーが刻まれている。


「炎と水の温泉神スパクアの紋章」


 魔法の行使によって、タトゥーが魔力で鈍く輝いていることに今更気付く。


「戦闘になった場合に備えて、その魔法象徴シンボルは他の人にはあまり見せないほうが良いでしょうね。魔法使いを無力化するには魔法象徴シンボルを破壊するのが手っ取り早いですが、ユツドーさんの場合、魔法象徴シンボルを狙われるのは命を狙われるのと同義でしょう」

「マジか……」

「胸で良かったですね。魔法象徴シンボルが壊されたら楽に逝けるでしょう。右手とかだったら腕ごと魔法象徴シンボルを切断されて死ねないなんてこともあり得ますからね」

「あんた、けっこう独特の死生観持ってるね……」


 魔法が使えなくなっても生きてたほうが良い気がするんだが……。アメリアの発言からちょくちょくこの世界の治安の悪さが窺えるのが不安だ。チート魔法で無双! って感じになると良いのだが。


【レベル2に上がりました】


 水に浸かりながら話しているうちに、なぜかレベルが上がった。いや、アメリアの話だと、温泉魔法は温泉に入るだけで経験値が貰えるのだったか。ここは池だけども。


 温泉魔法の詳細な情報をもっと知りたいところだ……と思ったらステータスウィンドウが温泉魔法の詳細を表示してくれた。


【温泉魔法:魔力の溜まっている水に入ると魔法を得られる。入っている間は経験値を取得する】


 ステータスウィンドウ、結構便利だな。もし俺がここの池を見逃していたらこの先辛かったのでは? と思いながら、他の魔法の項目も見てみる。


【状態確認魔法:あっはっは! この魔法を見つけるとは運が良いね! この森では序盤に便利な魔法がいくつか手に入るから探してみたまえ!】


「文字だけでもうるせぇ女神だな!」

「いきなりどうしたのですか?」


 ステータスウィンドウに叫んだ俺を、アメリアが不審そうな表情で見ていた。

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