第12話 男子高校生、遭遇する

 それからしばらくフェソソソと様子を見ていた早志だったが、誰かがやってくる気配は全くなかった。


「全然来ないな」


「フェソ」


「……ご飯でも食べに行く?」


「フェソ!」


 昼食を食べて、二人が戻ってきたとき、地面に穴が開いていた。


「え、あんなのに引っかかる人がいるの?」


「見てみるフェソ!」


「あ、ちょっと」


 人間じゃないものが落ちている可能性もあるし、迂闊に近づくのは危険なことである。


 だから早志は、フェソソソを止めようとするが、フェソソソは素早い動きで穴に近づき、中を覗き込んだ。


 そして、「フェソ!」と驚く。


「誰かいるのか?」


 早志も穴の中を覗き込み、ギョッとする。右目に眼帯を付け、黒いローブをまとった男が、じっと早志たちを見据えていた。


「マジで人が落ちているじゃん」


「だから言ったフェソ。あれは効果があるって」


 早志は渋い顔になる。認めたくないが、認めざるを得ないのかもしれない。この世界では、マフィンを使えば人を罠にはめることができる。


(というか、この人は、盗賊団の関係者なのか?)


 もしも違っていたら、かなり申し訳ないことになる。だから早志は、彼が盗賊団の関係者であることを願って声を掛けようとした。


 が、先に男の口が動く。


「お前らは俺を罠にはめた気になっているかもしれないが、実のところ、俺はわざとはまったのだ」


「えっと、何のためにですか?」


「それはだなぁ――俺の宝を盗んだ輩に裁きを与えるためだよ」


「なっ」


 男は高く跳んだ。早志は驚いて尻餅をつく。男は早志とフェソソソを軽く跳び越えると、二人から少し離れた所に着地した。早志とフェソソソは穴を背に振り返る。


「もしかして」と早志の唇が震える。「あなたが、『黒猫盗団』?」


「いかにも、私は『黒猫盗団』の一人だ」


「マジか」


 あっさり認めてくれたことに、早志は驚きを隠せない。盗賊団なのだから、もっと慎重な振る舞いをすると思っていたのだが……。


「その表情、お前は俺にガッカリしているな?」


「べつにガッカリはしていないですけど」


「わかっている。お前にもそう言いたいときくらいあるだろう」


「わかってないですよね」


「それより、俺のお宝はどこにやった?」


「お宝? って何ですか?」


 早志に心当たりはあったが、恍けてみる。すると、男は「くくくっ」と笑う。


「しらばっくれるな。知っているんだぞ。お前が盗んだことを」


「だから、何ですか?」


「おそらく――」とフェソソソが代弁しようとしたので、右手で口を押さえ、そのまま抱きかかえた。


 この行動を男が怪しむかと言えば、そんなことはなく、「くくくっ」と笑う。


「まぁ、いい。体に聞けばわかるさ。いざ」


 男が飛び掛かってきた。


(やべぇ、どうしよう!?)


 早志は、冒険者ギルドでやったように左手を突き出してみた。


 すると、その左手が男のみぞおちに当たり、男は吹き飛ぶ。


「意外と戦いの才能があるのかも」


 ――なんて感心している時間はそれほどない。男が再び攻撃してくるかもしれないからだ。


 しかし、早志の攻撃で吹き飛んだ男は、そのまま木をなぎ倒しながら、遠くまで飛んでいく。


「いや、飛びすぎだろ」


 呆れる早志にフェソソソが言った。


「早く追いかけないと」


「そうだな」


 早志は、フェソソソを小脇に抱えたまま、走り出した。

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