第4話 男子高校生、妖精に出会う

 叫んだことですっきりした早志は、やや不服そうな顔で眼下の街を見下ろす。


 まだ信じきれていないが、自分は異世界へやってきたらしい。


(どうして俺が異世界に?)


 そのとき、気配を感じて振り返った。


 そして、ギョッとする。大きな犬の化け物がいたからだ。


「わっ、何!?」


 驚いて、両手をクロスさせて頭を守る。が、とくに攻撃される感じはない。恐る恐る目を開けると、先ほどまで犬の化け物がいた場所に、犬のケモ耳が生えた幼女が立っていた。


「いや、え、子供?」


「え」


 幼女も自分の体や犬の耳を触って、驚愕する。


「ええっ! 人間の子供になってるフェソ!」


「……何で驚いてんの?」


「だって、フェソはもっとプリチィな妖精フェソ」


「プリティって言いたいのかな? 今でも十分すぎるくらいプリティだと思うけど」


「ち、違う! そうじゃなくて、フェソは、フェソはもっとプリチィなの!」


「わかったよ。というか、君は誰? 俺は突手早志」


「フェソは、フェソソソだフェソ。って、ちがーう!」


 フェソソソは一人で絶叫し、膝をついて頭を押さえる。情緒が不安定すぎる様相に、早志は困惑する。


「あの、よくわかんないけど、大丈夫?」


「大丈夫じゃない、フェソ! って、このフェソって何だフェソ!」


「自分で言っているんじゃん。何か、怖いよ、君」


「フェソも怖いフェソ~。何だかこれは、すでに攻撃を受けているようなそんな感じがするフェソ」


 フェソソソが顔を上げて、早志を睨む。


「もしかして、ハヤシ。お前がフェソに何かしたんでフェソ?」


「いや、何もしていないけど」


「嘘フェソ! 何かしているフェソ! お前のスキルは何だフェソ!」


「スキル? あぁ、そういえば、さっき、城で調べたときは【笑劇展開】って言われたけど」


「【笑劇展開】……。お、お前ぇ! 『展開者』だったフェソ!?」


「『展開者』って何?」


「フェソがここまでの影響を受けるとは、ハヤシは並の『展開者』ではないフェソ。このままではフェソの分が悪いフェソ。だから、今日の所は見逃してやるフェソ。だから、去るフェソ」


「わかんないけど、立場逆じゃね。まぁ、嫌だけど」


「なっ!? こいつ、幼女をいたぶる変態フェソか!?」


「違うわ。『展開者』って何?」


「こうなったら、フェソもやるしかないフェソ」


「ねぇ、何で俺の質問を無視するの? 街の人は俺の質問にちゃんと答えてくれたよ」


「無視していないフェソ」


「じゃあ、『展開者』って何?」


「うるさい、死ねぇぇぇ!」


 フェソソソが両手をぶんぶん回しながら走り寄ってきた。その戦闘スタイルはただの幼女! 早志はフェソソソの額に手を当てて、距離を取る。フェソソソは目を瞑りながら、両手を必死に回し、疲れてきたのか、「まぁ、ええフェソ」と離れる。


「今回の所はこれくらいで許してやるフェソ」


「いや、王道なボケだな」


「あああああ!」


 フェソソソは頭を押さえて、膝から崩れ落ちる。


「マフィンの匂いにつられてしまったのが、運の尽きだったフェソ」


「マフィンって、食べたの三時間前だけど……」


 目じりからボロボロ涙を流すフェソソソを見て、早志は「しゃーないな」と頭を掻く。


「わかったよ。そんなにマフィンが食いたいなら、買ってあげるよ」


「本当フェソ?」


「ああ。その代わり、俺の質問に答えてね」


「任せて欲しいフェソ。フェソは解説妖精だから、博識フェソ」


「……まーた、新しい概念が出てきたよ」


 質問するのも面倒に感じてきたので、早志はスルーすることにした。


「それじゃあ、街まで歩ける?」


「歩けないフェソ」


「いや、歩けるだろ」


 しかし、フェソソソの潤んだ瞳の魔力に負けて、早志はしゃがんで背中を向ける。


「わかったよ。ほら、おんぶしてあげるから」


「わーいフェソ」


 そして、フェソソソは――早志の左肩に乗った。フェソソソは軽かったので、そこまで負担はないが……。


「まさかの戸〇呂スタイル」


「ん? どなたフェソ?」


「あ、いや、マンガの話」


「マンガって何だフェソ?」


「……なるほど。質問のし過ぎもよくないかもな」


 そんなことを思いながら、早志は再び街へ移動する。

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