第2話 男子高校生、追放される
突然怒鳴られて、早志はドン引きする。
「いや、何で怒られなきゃいけないんですか? それに、追放って。つまり、ここから出て行けということですか?」
「そうだ」
「どうしてですか?」
「お前からはやる気を感じられないからだ」
「いやいや。俺が率先してここに来たならまだしても、いきなり召喚しておいて、それは酷くないですか? それにやる気がないわけじゃありません。ちゃんと説明してくれれば、それでいいんですけどね」
女王にぎろりと睨まれる。
「何だ? 文句があるのか?」
「文句というより意見はあります」
「そうか。聞かないけど」
「いや、聞いてくださいよ」
「さっさと出ていけ!」
「暴君すぎるでしょ」
「暴君、かぁ。良い響きだ」
「大丈夫か、この国。国なのかもよくわからんけど」
そのとき、視界の端から金髪のイケメンが進み出て、女王の前に跪く。
「陛下。彼を追い出すのは、彼のスキルを判定してからでもいいのではないしょうか?」
「スキルを? ……それも、そうだな」
「物分かりが良いですね。で、スキルって何ですか? 一応、確認させてください」
女王に睨まれる。周囲のクラスメイトに目で疑問を投げかけるも、呆れたように首を竦めた。また早志だけが理解できていない状況である。早志だって『スキル』の辞書的な意味は知っている。しかし、その意味と女王が使っているスキルが一致しているかを確認したいだけだ。
「逆に、何で皆は知っているんだよ。それに、何でそんなに冷静なの?」
「なろうだよ」と球馬が言った。
「なろう? あぁ、そういうジャンルのマンガやアニメがあるのは知っている」
「見たことないの?」
「ないけど」
マンガやアニメは、父親の影響で、『友情・努力・勝利』ものしか読まないから、それ以外のマンガやアニメには疎い。
「嘘だろ。なろうアニメは一般教養だぜ。俺たちがこんな状況でも動じずにいられるのは、なろうアニメで見たことがあるからだ。ここもなろうで見たことがあるやつだし」
「え、なろうって、赤ペン先生だったの?」
「そうだよ」と茶美が答える。「なろうを知らないとか、マジでキモイ」
「そこまで言われることなの?」
「ええ。そうよ」と真智は言う。「日本三大アニメと言えば、『ドラ〇もん』、『ちび〇子ちゃん』、『なろうアニメ』じゃない」
「……わかんないですけど、その分類はおかしくないですか?」
「はぁ」と真智はため息を吐く。「突手君はさ、芸人を目指しているのか知らないけど、いつも人の揚げ足ばかりとってくるわよね」
「いや、芸人も別に揚げ足ばかりとっているわけじゃないと思いますが。それに、そもそも芸人を目指していませんし。進路相談で芸人を目指していますと一度でも相談したことがありましたか?」
「あの」と金髪のイケメンが背後に立っていた。早志は驚いて距離をとる。音も無く人の背後に立つなんて、目の前の金髪イケメンは手練れであるに違いない。
「そろそろ、スキルの説明をしてもいいですか?」
「あ、はい。すみません、お願いします」
彼はちゃんと説明をしてくれるらしい。だから早志は、安心した様子で、彼の説明を聞く。
「今から皆さんには、こちらの水晶を持ってもらいます。すると、水晶が輝いて、スキルを表示してくれます」
「……なるほど。それで、スキルって何ですか?」
金髪イケメンは早志に微笑みかけると、鈴木に水晶を渡した。
「え、無視?」
「それでは、まずは彼からやってみましょうか」
「え、俺からですか? 緊張しちゃうなぁ」
と言いつつ、球馬はワクワクした表情で水晶を持つ。瞬間、水晶が輝きだして、宙に球馬のスキルが表示される。
『勇者』
周りがどよめく中、早志は首をひねる。
(『勇者』ってスキルなの?)
違う気はするが……。
しかし、『弁護士としてのスキルを持っている』とか聞くし、勇者に必要な諸々のスキルの総称を『勇者』と表現しているのかもしれない。つまり、『勇者』からその個人が有しているであろう諸々のスキルが連想できる……はず。
(本当にそうなのか?)
早志は自分の考えを確認するため、次郎に確認する。
「なぁ、次郎――」
しかし、声を掛けようとしたところで、次郎の異変に気付く。次郎は卑しい笑みを浮かべ、ぶつぶつと何事か呟いていた。
「わかっているよ。ここで僕がすごいスキルを手に入れて、皆からチヤホヤされるんだ。さて、どうしてやろうかな……」
なんか怖いので、早志はそっとしておくことにした。
クラスメイトに視線を戻すと、茶美が水晶を持って、自分のスキルを調べていた。表示されたスキルは――。
『聖女』
この結果に、周りがどよめく。
(いや、聖女もスキルではないでしょ。ってか、聖女って何? 聖職者的なことなのかな)
早志は、一人だけその結果に眉を顰めるが、先ほどの勇者と同じ解釈をすることで、言葉を飲み込んだ。
「それじゃあ、今度は君のスキルを調べようか」
金髪イケメンに水晶を渡されて、早志は戸惑う。とりあえず、受け取ってはみたが、どうすればいいのか。
そのとき、水晶が光って、早志のスキルが表示された。
『笑劇展開』
どよめきが起き、早志はため息を吐く。嫌な感じのどよめきだった。
「あの、すみません」と金髪イケメンに早志は水晶を見せる。「これって、どんなスキル何ですか?」
「……わからない」
「え? わからないんですか?」
「ああ。誰かわかる者はいるか?」
金髪イケメンの問いかけに全員が首を振った。
「なろうにも、そんなスキルは無かったぞ」と球馬。
「どんだけ、なろうに信頼を置いているんだよ」
「なろペン先生だからな」
「さっきの俺をいじるな!」
「女王様。どうしますか?」
全員の視線が女王に集まる。
そして、緊張感のある中で、女王は言った。
「その者は我々が誰も知らないスキルを有していた。よって――追放しろ」
「何でですか? 確かに、まだ誰も知らないスキルかもしれませんが、実は超重要なスキルかもしれませんよ?」
「いいか、覚えておけ、小僧。誰も知らないということは――誰からも必要とされていないということだ」
「いや、それは暴論すぎます! それが世の真理なんだとしたら、この世界の全ては誰からも必要とされていないことになりますよ」
「うるさい! 黙れ!」
「えぇ……」
「とにかく、そいつは不要だ! さっさとつまみ出せ!」
早志の隣に兵士がやってきて、両脇を掴まれる。
「ちょっ! 待ってくださいよ。せめて、もう少し説明してから、追放してください。この状況についてさっぱりわかっていないんですけど!」
「お前は、勇者召喚によって、ここ『テンプレート王国』に召喚された。つまり、ここは異世界で、お前はこれから異世界で生活することになる」
「ちゃんと説明してくれた! って、異世界!? どういうことですか?」
「さぁ、説明はしたぞ! 出てけ!」
「ちょっと、待って! 皆、助けてくれよ!」
早志が引きずられるも、クラスメイトは戸惑うばかりで早志を助けようとはしない。そんな中、球馬が声を上げる。
「早志! これはチャンスなんだぞ!」
「そうなの!?」
「ああ。追放は成功フラグだ。だから――強くなって俺を倒せ!」
「いや、どういうこと!? 何で俺が球馬と戦うの!?」
しかし、球馬からの答えを得ることはできなかった。扉が閉じられ、部屋が遠ざかっていくからだ。
「ちょ、マジで、誰か説明してぇぇぇぇぇ!」
早志の絶叫が石造りの廊下に響いた。
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