クラス転移で異世界に召喚された俺、謎スキル『笑劇展開』のせいで追放されてしまうが、実は最強のスキルだったので、ケモ耳幼女と一緒にスローライフで無自覚無双します!
三口三大
第1話 男子高校生、召喚される
今年の旅行先は東京で、メジャーすぎる旅行先に不満が続出し、早志も多少の不満はあったが、なんだかんだで楽しめている。
今はバスに揺られて、千葉にある夢の国へと向かっていた。
嬉々とした表情で夢の国について調べていると、隣に座る眼鏡でおかっぱの少年、次郎に声を掛けられた。
「楽しそうだね」
「まぁな」と早志は答える。「だって、あの夢の国だぜ? 実は俺、行ったことないんだよね」
「そうなの? 意外だね」
「ん。まぁ、あんまり旅行するような家族じゃないし、あとは中学のときの修学旅行で風邪をひいてしまってね。それで、行ったことないんだ」
「なるほどねぇ。じゃあ、楽しみだね」
「ああ! ついたらさ、耳をつけようぜ」
「いや、僕は遠慮しておくよ」
「マジ? せっかくだし、楽しもうぜ!」
そのとき、欠伸が出そうになって、早志は欠伸をかみ殺す。
「すまん。昨日は楽しみすぎて、3時間しか寝てないんだ」
「それは本当に楽しみだったんだね。僕も楽しみで9時間しか眠れていないよ」
「十分眠れているじゃねぇか。むしろ、足して二で割りたいくらいだわ」
「修学旅行でもツッコミが冴えているね」
「おう」
「そうだ。到着までまだ時間があるみたいだし、眠ったら?」
「そうだな。ちょっと寝るわ」
「うん」
早志は目を瞑って、夢の国へ思いを馳せる。早志にとって初めての夢の国。そこにはどんなファンタジーがあるのだろうか。
そんなことを考えているうちに、早志の意識は沈んでいく。
――そして、早志が目覚めたとき、そこは石造りの部屋だった。
「どこだ、ここ!?」
早志は驚いて声を上げる。辺りを見回すと、クラスメイトが倒れていたので、そばにいた次郎を起こす。
「おい、次郎。起きろ!」
「う、うーん」
次郎が目を覚まし、辺りを見て、うろたえる。
「ね、ねぇ、早志君。これ、どうなってるの?」
「俺が聞きてえよ。何があった?」
「わからない。何か閃光に包まれた気はするんだけど」
「もしかして、ここが夢の国か?」
「そんなはずはないけど」
他のクラスメイトも起き上がり、突然の状況に戸惑う。
そのとき、「静粛に!」と男の怒声が響いた。
全員の視線が部屋の奥へ向けられる。
そこに見るからに高貴な壮年の女性が座っていた。隣に巻きひげの中年男性が立っている。さらに、どこからともなく鎧を着た兵士が現れ、早志たちを囲む。
「……どこから来たんだ、この人たち。ってか、何だこの状況?」
早志が困惑する中、中年男性が手を叩いた。
「女王陛下から話がある。陛下の言うことをよく聞くように。それでは、陛下。よろしくお願いします」
「うむ」と言って、女王は立ち上がる。
部屋の緊張感が増した。
その緊張感を破るように、女王が口を開く。
「今から、皆さんには勇者として魔王と戦ってもらいます」
「え、嫌なんだけど」
全員の視線が早志に向けられ、どよめきが起こる。
早志は注目されたことに戸惑い、理由を察して、申し訳なさそうに眉根をよせる。
「すみません、お話し中でしたね」
「お、おい。貴様!」と中年男性が唾を飛ばす。「今、何と言った!」
「えっと、嫌なんだけどって言いました」
くわっと男が目を怒らせ、剣の柄を握って、歩み出そうとする。が、それを女王が手で制した。
「まぁ、待ちなさい。彼もいきなり戦えと言われて、困っているのでしょう。だから、ちゃんと説明してあげようじゃないですか」
「はっ、陛下がそのようにおっしゃるのであれば」
中年男性が不服そうな顔で下がっていく。
「あぁ、そっちで怒ったんですね」
確かに話も聞かずに拒否した自分の姿勢には問題があったかもしれない。
こほんと女王が咳払いしたので、英雄は女王の言葉を待つ。
少なくともこの女王はちゃんと説明してくれるようなので、彼女の話を聞いてから、戦いへ参加するかどうかの意思表明をした方がいいだろう。
「私たちは、魔王に対抗するため、勇者召喚を行い、あなた方をこの世界に召喚しました。なので、あなた方には、勇者として魔王と戦ってもらいます」
「いや、意味が分からないんですけど」
全員の視線が早志に向けられ、再びどよめきが起こる。
「え、また俺、変なことを言っちゃいました?」
早志は首をひねる。自分が変なことを言ったつもりはない。しかし、周りの反応を見るに、早志の方が変なことを言っている雰囲気がある。女王も金魚のように口をパクパクさせて驚いているし。
「なぁ、次郎。俺、何か変なことを言ったか?」
「うん」
「え、何?」
「意味が分からないって」
「実際、分からなくね? ってか、次郎はわかるの?」
「うん。僕たちは、勇者召喚されたから、勇者として魔王と戦うんだよね」
「……まぁ、いろいろ言いたいことはあるんだけど、そもそも勇者召喚って何? 何となくニュアンスはわかるんだけど」
「勇者召喚されたということは、勇者召喚されたということだよ」
「ん? 俺の質問を聞いていた?」
「もしかして、早志は勇者召喚を知らないの?」
と言ったのは、野球部のキャプテンであり、甲子園を目指して、ほぼ毎日部活に取り組んでいる爽やかなイケメン、球馬だった。
「え、うん」
「マジ? ダサッ」
と言ったのは、SNSでバズることしか頭に無いようなギャルの女生徒、茶美だった。
「いや、そこまで言われることなの?」
「あのね、突手君。それは、非常識だよ」
と語気を強めたのは、マッチングアプリで趣味は海外旅行とカフェ巡りと書いているくせに、マッチングアプリで出会った男にランチを奢ってもらうのが趣味になりつつある女教師、真智である。
「えー。でも、聞いたことないですよ、勇者召喚なんて言葉」
しかし、そんな早志に対し、クラスメイトは冷ややかな視線を浴びせる。
全員が『勇者召喚』を知っていそうな雰囲気に、早志は勇者召喚を知らない自分が悪い気がしてきた。
「そうか。お前は勇者召喚を知らないのか?」
女王の問いかけに早志は頷く。
「はい。まぁ、何となくニュアンスはわかるんですけど。なので、すみませんが、勇者召喚について教えていただけませんか?」
「よろしい。ならば――今すぐお前は追放だ!」
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