第7話 路上ライブ

 とんでもなく大きな「恥」を初めて知った4人組は力が入らなかった。街行く人は全員が俺達を笑ってるかのような感じさえする。


そんな事が続き2か月がたった。


 すすきの駅前でライブをしているバンドがいる。こんな所でライブしてる人もいるんだ…

 毎日、音楽室には通っているが、誰も楽器を触りたがらない。たまに音楽の話をしても、煮えきらない返事しか帰ってこない…そう、みんな死んでいるんだ。


「オーッス!」の掛け声と共に入ってきたのは、新井顧問。

「これを見ろ!」と取り出したのは、道路使用許可証。

「なんスカ?これ?」

「ライブをやるぞ!」恐る恐る聞いてみる。

「どこでですか?」

「札幌駅前だ!」ライブをやるからって札幌駅前とは…恥の上塗りだ…

「嫌です!もう、恥はかきたくありません!」

「うるさい!今から付き合え!」


 半ば強引に「拉致」られ、車に乗って札幌駅前広場へ広場には、沢山のバンドがライブをしていたり、独りでギターだけで歌ってる人もいる。


 ほとんどの人が誰にも振り向いてもらっていない。


 立ち止まっている人がいるバンドを探す方が難しいぐらいだ…

「ここでお前らはやるんだよ!」

「でも、もう、恥をかくのは嫌なんですよ!」

「お前らは、勘違いしてないか?いいか、なんで恥をかいた?なぜ、恥をかいたと思ったんだ?」

「それは、上手く出来ると思ったのに散ざんな結果に終わったからです。」


 新井顧問は静かに口を開く。


「いいか、最初っから上手くできる奴なんていないんだ。客の歓声に包まれて上手くできた理想を掲げたからアクシデントで恥をかいたと思ったんだよ!」

「恥をかいたなら、次は少しでも上手くなってやる!恥の上塗り?上等だ!そう思ってみんな、それを乗り越えてステージに立ってるんだよ!」

「だから、もう一度、もう一度だけ、がんばれ!お前らならできる!」

「…もう一度だけ、頑張ります…」


 音楽室にて、日頃、手入れを入れなかったせいでホコリをかぶった楽器を手に取る。


「弦がさびてる…」ピックで弾くと簡単に切れそうだ。

「弦の交換をしなくちゃ…」ゴソゴソとカバンをあさるが、弦はなかった…

「明日、買いに行こう、今日はこれで解散だ、またな」と涼介が音楽室を後にする。


「涼介!」廊下に透の声が響いた。

 足を止めた涼介に透が新しい弦を手渡し

「やるよ。」

 音楽室へ戻りながら、涼介と透は肩を組んだ

「やるか?」

「やろう!」


 音楽室に新井顧問の姿があった。

「路上ライブの曲は文化祭と同じ物をするぞ!」


 息を呑む4人組の顔を見て、察したんだろう。

「わかってる、乗り越えろ、心配すんな!」


 路上ライブまで、一週間、4人組と新井は、また合宿を始めた。


 路上ライブ当日。

 沢山のバンドマンがいるかと思えば、今日はイベントがあったようで、バンドマンが少なく人が多い。

「この中でやるのか…」


 不安に思う4人組に新井が声を掛ける。

「今日やる曲は文化祭の時よりも、少しだけでいい、まとまった演奏をするように心がけるんだ、決して甘えた希望を抱くな、石を投げられる覚悟でやれ!」


 1,2,.1.2.3.4.浩二がスティックを叩く

 当前、誰も気にしないかのように前を通り過ぎていく。演奏が下手からか時折、笑いながら前を歩く人もいる。

 俺達の歌声は人混みにかき消されていく…

「もう、解散だな」と頭をよぎった…が、しかし…


 一人の女性が足を止めてくれた。俺達の演奏に合わせて手拍子してくれている。

2曲の演奏を終え、頭を下げると「頑張ってください」と声をかけてくれた。初めての事だった…


 ニヤつきながら新井が、「どうだった?恥は払拭できたか?」

「はい!頑張ります!」俺達はそう叫んだ!







「へぇ〜、よく立ち直りましたね」

「落ち込んでいたからこそ、この女性客が現れたのは、他の何を置いてもいちばん嬉しい出来事だったな〜」

「それで、これからは順調にライブ活動ですか?」

「いや、それが上手くいかないんですよ」

「あれが初めてで最大の危機だったな〜」

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