第5話 初めての楽器
メンバー全員、楽器を手にした。バンド名も決まった。
やるジャンルはハードロックと決まっている。
後はやるだけ…そう、やるだけなんだ。
そう思っていると親父が
「お前らアンプはいらんのか?」と聞いてきた。
「アンプって何?」
「そこからか〜」
親父は顔を覆ってた手を外し、ギターの音を出すにはアンプというものが必要と言ってくれた。
「本来なら、マーシャルの方が音がいいんだけど、高いし、扱い注意だし…まっ、家で練習するには、これぐらいでいいだろう」と小さなアンプを勧めてくれた。
「あと、ピックな!」もう、説明もしてくれない。
「あと、これも、これも!」とカゴがいっぱいになってしまった。
そんなことをしてると浩二がやって来て
「親父さん、スミマセン。ドラムって、どう選ぶか教えてもらっていいですか?」
「おう!ドラムはギターと違って簡単に買い替えられる物じゃないからな、いい物を選ぼうか」と言って、奥に消えてしまった…
2時間位の時間が、あっという間に過ぎてしまった。
それぞれ、ギターやアンプを持って帰る訳だけど、ドラムだけは、そうはいかない。それでも浩二は持って帰りたいと無茶をいうので、「スネア」だけ持って帰ることにした。
家でギターを出してアンプに繋ぎ、ジャカジャーンと弾くと、親父が怒鳴った。
「近所迷惑も考えろ!」
「それと、お前、チューニングって知ってるか?」
「何、それ?」
「あのなぁ…」
「明日、もう一度みんなを集めろ、もう一回、買い物に行く!」
3回目の島村楽器店。
「今日は楽器の基本的な使い方を教えようと思います。ハイっ、拍手〜!」
パチパチパチパチ…親父のノリもわかってきた。
ドラムだけは専門外なので、スタッフさんに、教えてもらえと浩二に言うと、
「ではまず、チューニングの仕方について…」音叉と言う道具を使った方法を教えてもらい
「エレキギターでは、ピックを使った弾き方がポピュラーなのでそれを使ったストロークの方法を教えます。」
「特にベース、ダウン、アップと音色が変わりやすいので、同じ音になるように練習すること。地味だけど頑張って!」
「そして、1番大事な事、それはリズム感です。なので、必ずメトロノームを使って練習しましょう。」
「次!わかってるけど、一応聞くな。お前ら楽譜、読めんのか?」
「………」
「わーった、わーった!」
「コピバンの定番は耳コピだけど、今はこんな便利な物もある!」と出してきた、1冊の楽譜。
「これはTAB譜と言って、弦のどこを押さえるか、数字で書いてある物なんだ。これがあれば耳コピが自信なくても弾けるようになる」
「そこで、みんなにこの譜面をプレゼント!」
そこには、「ザ・ビートルズ」って書いてある。
「親父、ツエッペリンじゃないの?」
「いきなりツエッペリンはハードルが高い!」
「まずはビートルズで基本をしっかりと叩き込む!どんなロックスターもビートルズの曲から入ってるんだ!」
なるほど…まずはこれをマスターしろって事ね。
そうこうするうちに浩二が帰ってきた。
「今日はこれでオシマイ!」
帰り道。
「そう言えば、お前らはどこで練習するんだ?」
「家ですけど…」みんなが口を揃えて言う。
「そうじゃなくて、みんなで揃った時だよ!
浩二だって、思い切りドラム叩きたいだろうに」
「本来ならスタジオを借りて練習するんだけどなぁお前らは金もねーしなぁ…」と親父は考え込み
「よし、まかせとけ!」公衆電話に行きどこかに電話してる。
「あー、新井?うん、俺だけど…」
(また新井先生?)
「あー、うんうん、そうそう、そんな事言わずに頼むよ〜!」
「おっ、じゃあ頼んだよ!すまないね!」電話を切る。
「お前ら!明日学校に道具一式持って集合な!浩二は俺が手伝ってやる!」
また?もう、言われるままにしよう。
翌朝、ギターを抱えて学校に行くと、校門の前で新井先生が仁王立ちして待っていた。
「先生、おはようございます!」
「おう!おはようさん!」(休日出勤なのに、怒ってないな…)
ドラムを積んだトラックがクラクションをプップッっと鳴らしながらやって来て、
「おう!悪いね!」
「先輩、無茶言い過ぎですよ~」
「でも、してくれたんだろ?」
「そりゃ、先輩の頼みですからやりますけど」
「ほんっと、助かる」両手を合わせた。
「親父、先生が親父のこと先輩って…?」
「ああ、新井は大学の後輩、同じサークルだったんだよ」
「サークルって?」
「ロック研究サークル!」
「コイツ、この面でキーボード弾きやがんの!」
「先輩!こんな所で言わなくてもいいじゃないですか!」先生の顔が真っ赤だ。
「では改めて、北高軽音同好会顧問の新井先生です!拍手〜!」
みんな、あ然とした。
「練習は音楽室を使う!音楽室は昼休み放課後、好きに使ってかまわん!わからないことは、俺に聞け!以上!」
新井先生はスタスタと校舎に入っていく…
俺達「帰宅部」が「軽音同好会」のクラブ活動?笑えるけど、練習場所がタダで手に入ったんだから、文句はない。
「親父、ありがとう!」
「礼なら新井に言え!」
「ヨシお前ら!まずの目標は今年の文化祭だ!ここでデビューを決めるぞ!」
「オー!」拳を突き上げた。
「え?文化祭?あと、2週間もないじゃないか!」
「無理!絶対無理!」
一斉に、悲鳴を上げる。すると親父は…
「大丈夫!死ぬ気でやれば、出来る!いや、むしろ死ね!」
「本当に何も知らなかったんですね」
「今思えば、笑えるけどね」
「それにしても、涼介君の親父さん、無茶苦茶ですね!」
「ハハハ、あれぐらいでないと、涼介はやっていけないよ!」
「いよいよ初ライブですね!」
「これがあったから、今があるんだよな〜」
「どういうことです?」
「実はね…」
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