第4話 楽器を手にするのは苦労する?

 すすきのにある、【島村楽器店】。


 自動扉をくぐると、楽器、楽器、楽器!

「オオー!」と声を上げながら、皆はギターが並んでいるブースの中へと走り出す。


 しかし若者の希望は、「現実」を目の当たりにすることになる。

「高っ…」

「安いのでも2万すんじゃん!こんなの高くて買えねーよ…」

「どうしよう…」

「…とりあえず、帰るか…」


 みんなさっきまでの元気はどこへやら、ガックリと、肩を落として店を出ていった。


 涼介の家に集まり、作戦会議。まだ、諦める訳にはいかない!なんてったって、今日結成した「ザ・青春バンド」がその日のうちに解散って、恥ずかしい。


作戦会議と云えども、全く案が出てこない。皆は黙る事しかなかった。

「バイトするか?」沈黙を破るように透が言った。

「うちの学校、バイトOKだっけ?」浩二が言った。

「うちの中華屋で働くってのはどうよ?ここなら、手伝いですって、言い訳出来るし!」雅也が言った。


「う〜ん、何かいい方法は…」

「ただいまー!」涼介の父親が仕事帰りに土産を買ったのか、両手いっぱいの紙袋を持っている。

「親父さん、お邪魔してます!」皆は一斉に挨拶、涼介の父親は理解はあるけれども、怖いのだ。

「おう!って、どうした?皆して暗いぞ。」

「実は…」


 楽器屋に行ったら、思いの外、楽器が高かった事、でも、諦めたくないって言う皆の考え、そして、今日結成したバンドを今日解散ってしたくないって事を、隠さずに、訴えた。


「う〜ん、そういうことか…」ビールの入ったグラスを片手に親父は何かを思いついたのか「任せとけ!」そう言うと、電話をかけ始めた…


「あっ、新井?」


 え?新井先生?


「うん、そういうことだから土日祝日は、悪ガキ共をウチで預かるから…ああ、よろしく!」

「よし、そういうことだから!」

「何?」

「とりあえず、今度の土曜日、朝5時にここに集合!以上、解散!それから、向こう1ヶ月は土日祝は開けとけよ!デートでも許さんからな!」


 俺達全員がポカンとしていると

「返事は!」

「はい!よろしくお願いします!」反射的に言ってしまった。


 みんなが帰った後、親父に聞いても、何も教えてくれないし、一体、何を考えてるんだろう?




 そうこうしてるうちに土曜日が来た。

 朝の5時。皆、眠そうにしている。


「よーし、揃ったな!」と親父の威勢のいい声が飛ぶ。

「よろしくお願いします!」

「おう!じゃあ、乗れ!」トラックの荷台を指差す。


 10tトラックの荷台…「乗れ!」

 皆、渋々荷台に乗るのを確認した親父は扉を閉めた。


「え?」

「親父!何にも見えないよ!」

「すぐに慣れる!」

「窒息するよ!」

「大丈夫だ!」


 トラックが揺れだしたと同時に、恐怖が襲ってきた。

 結構な時間、暗闇の中で揺れていて…

 意識が、朦朧とした頃に、扉が開き、

「よーし、着いたぞ!」


 ここが小樽であるのは、すぐにわかった。


「ここで何するの?」

「何するの?ってお前、俺はトラックの運ちゃん、お前らはその荷台に乗ってきた、わかる?」

「まさか、俺達を売りに出すんじゃ…」

「アホか!」


 そこには沢山の荷物があったので、何をするのかは、すぐにわかった。

「コレ全部?」

「そう、全部!」


 荷物の搬入をしていく。巨漢の浩二は、ラクラクと荷物を運び、逆に細面の透は、フラフラになっていた。


 意外と動いているのが雅也で、聞くと店の手伝いでこういう仕事になれているんだそう。

2時間は、やった。

 つ、疲れた…とへたり込んでいると、

「ほら、サッサと乗った乗った!」

 また、荷台に閉じ込められた。


 次に着いたのは青森県で、そこで荷下ろしと積み荷をした。

 さらに、富山県、大阪、四国…高松で一泊。


 旅行なら旅館の温泉に浸かり、豪華なご飯に夜の定番、枕投げと言うものだが、夜は夜で北海道に帰りながらの仕事のくり返し、食事は定食屋の一番安い定食、仮眠もトラックの荷台の中だ。


 そして、北海道に戻って来た。日曜日の夕方である。

「あ〜っ!帰ってきたぁ〜!」皆が口を揃えて言う。

「よし!今夜の晩飯は俺がごちそうしてやるから、家にこい!」

「え…?」皆、早く風呂に入って寝たいのにって顔。

「来るよ・・な?」

「は、はい!ごちそうになります!」


 家に帰ってくると、母さんがご馳走を作って待っててくれた。唐揚げ、ハンバーグ、スパゲッティ、鮭のチャンチャン焼き、何でもござれのフルコース!

「オオーーーーー!」皆の眼が輝く!

「いっぱい食べてね!」

「いただきます!」


 皆が無心に食べていると、親父が母さんに話していた。

「昨日、今日とコイツら頑張ったんだぞ!何の文句もなしにだ!すごいぞ、コイツラは!」


 その話を聞いて、みんなの手が止まる。

「頑張ったな!」

「ありがとうございます!」

「さっ、食え、食え!」


 そんな親父の手伝いをして1ヶ月…親父から招集がかかった。

 ついてこい。それだけを言って。みんな、黙ってついてった。

 着いた場所は、【島村楽器店】。前に皆で行った所だ。


「さて、集合!」

「これから、皆さんのパートを発表します!」


 突然、何言ってんの親父?

 親父は「浩二!お前は力があるから、ドラムな!」

「え?ギターやりたいんですけど」

「バンドってのはな、ドラムの迫力とタイトなビートが大事なんだ。幸い、お前は身長がある。その長い手足とパワーをドラムに叩き込んでやれ!」

「はい!わかりました!」


「次、雅也!お前は浩二の次に力がある!ベースな!」

「あの、僕もギター、遣りたいんですけど、何でベースなんですか?」

親父が言った。

「ベースと言うのは、一見地味に見えるかも知れん、だがな、ドラムのカッコよさを引き立てるのがベースで、ギターのカッコよさもベースがなくては半減する。それにベースだけの弾き方もあって、マスターするとカッコいいんだ!」

「わかりました!ベースやります!」


「次、透!」

「はい!」

「お前はリード・ギターな!」

「ありがとうございます!」


 一応、理由を聞いておこう。

「親父、何で透がリード・ギターなの?」

「そんなのかんたんじゃん!美少年だからだよ!」

「考えても見ろ、美少年がカッコいいギターを弾くんだぞ!これで女の子のファンも増えるぞ!」


 ハァ〜っとため息をついた。

 そこで小さな声で「でもな、美少年がギターを弾くってのは、スグに飽きられるんだ。かなり練習を積まないとヤバいぞ。」


「次、涼介!」

「はい!」

「お前は、リードボーカル&サイドギターだ!」

「え?ギター弾きながら歌、歌うの?難しいじゃん!」

「まぁ聞け、息子よ…」

「お前がこの中で、1番リーダーシップが強い!その上、自分以外の人の事もちゃんと見てる!サイドギターってのは、ドラム・ベースのリズムを刻みつつ、リードギターの補助をする隠れた難しい所だ!お前にはやれる、がんばれ!」と、親父は言ってくれた。


「うん親父、がんばるよ!」

「よ〜し!今日ここに来てもらったのは、パートの発表だけだからでは、ありません!」

 みんな?っと、思っていると…

「それぞれのパートを考えつつ、自分が使いやすいと言う物を給料として、買ってあげます!」

「え?えぇーー!」と言う奴、「やったー!」と言う奴、みんなそれぞれが喜んだ。


「よし、行け!」

「はい!」それぞれの場所に走っていく。


 みんな、それぞれ自分の楽器を手に持ち、あーでもないこーでもないと、色んな楽器を触っている。


「親父?」

「なんだ?」

「親父はどんなパートにいたの?」

「お前と同じサイドギターだ」

「俺、親父と同じギターがいいな、教えてよ!」

「よし、任せとけ!」


 選んでくれたのは青いメタリックの「ストラト」のギターだった。


「これでライブだぁ~!」って叫んだやつがいる。

 それに乗せて「ザ・青春バンドのライブするぞー!」と叫んでしまった。

 よく考えたら、楽器ってどうやって弾くんだ?












「それにしても、苦労してますな〜」四十代サラリーマンは餃子を肴にビールを機嫌よく飲んでいる。

「あの時は、本当に死ぬと思いましたよ」店主は他にお客がいないもんだから、カウンター越しに次の酒の肴の用意をしている。

「でもね、それで手に入れた楽器は一生物ですね」

「今も持ってるんですか?」

「もちろん、今でも宝物ですよ」

「これでいよいよライブですか?」

「まだまだ先の話ですよ」

「これから、どうなるかというとですね…」

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