第一章 県大会へ
ホビーショップ天宮
ADトルーパーは本当に人気の競技なのだろうか?
少しは話題になるかと思って期待していたんだが、放課後まで昨日のショッピングセンターの大会が話題になることもなく、俺は少々がっかりしながら、自転車を漕いでいる。
「つばさちゃんの人気も限定的なのかなぁ……」
ネットで調べたら、西の
俺の家から中学まで、自転車で十分。中学から折り返すようにして自転車で三十分。
学区を超えるとさすがに遠いと感じるけど、初めて訪れるホビーショップ
今日はまず、俺専用の機体を組み上げることになっているのだ。
機体を選んで、カラーリングを決めて、使用する装備を選んで、動きやすいように各パラメーターを調節して……。
一番ワクワクする時だよな。
ホビーショップ天宮は、駅前ロータリーからのバス通り沿いに有った。
五階建てのマンションの一階が、プラモデルなどを売ってる店舗だ。外からはトルーパーバトルの機器は見えないけど、どこにあるんだろう?
白いタイル張りの建物の脇に自転車を停め、俺は恐る恐るドアを開けた。
「おっ、早速来たな、昨日のチャンピオン」
目敏くショップのエプロンをした髭おやじ、店長の
凄いな……ドアの正面のショーケースが店の左右を分けるようにして、左側は一面のプラモデルや、エアガン、テレビゲームなど、男子天国。その半分のスペースとはいえ、右側はドールハウスや、縫いぐるみ、着せ替え人形などの女子天国。
色合いもそうだが、匂いからして違ってきそうだ。
「お言葉に甘えて、来ちゃいました」
「遠慮などいらないよ。ウチが一枠貰ってる県大会の出場権だ。それを使うんだから、しっかり練習して、良い結果を出してもらわないと困るからね」
「期待に添えるよう頑張ります」
「その意気、その意気。……ユキちゃん。俺は八神くんと下にいるから、レジを頼むよ。何かあったら、呼んでくれ」
俺の肩を叩いて励ますと、店長はバイトらしい綺麗なお姉さんに声をかけた。
ふわりとしたソバージュヘアがちょっと色っぽい。女子大生くらいかな? どう見ても女子コーナーをメインに担当していそうだ。
後ろ髪引かれる俺の背中を押して、店長は【トルーパーアリーナ】と書かれた開けっ放しのドアを潜り、地下室へと俺を押して誘う。
自動ドアが開くと、そこはまさに【トルーパーアリーナ】だ!
コンクリート打ちっぱなしの地下室の中央に、昨日見た大型のバトルユニットが置かれており、その周囲に、パソコンに簡易コクピットチェアのセットのバトル台が四台。
ガンガンとバトルのBGMが響く中、子供から高校生、大学生まで、みんな夢中になってモニターを見つめている。
俺は店長と並んでサービスカウンターの中に座り、指示された【トルーパーピット】と呼ばれる売買用のユニットに、新品のメモリーを差した。
ホログラムディスプレイに、三体の基本素体のグラフィックが浮かんだ。
「まずは最初の関門だ。八神くんは、どの機体を選ぶね? パワーのタルタロスα。オーソドックスな、昨日使っていたバリアント2。そしてスピード重視のレパード改。……好みの機体で、長い付き合いになる相棒を選んでみよう」
クルクルと回りながら、前後左右のデザインを披露する三つのトルーパー。
まあ、ゴリラこと、タルタロスαは好みでないので、最初から除外する。デザインもそうだけど、反応速度が遅いから、たぶん俺の戦い方にハマらない。
レパードのスピードも魅力だけど、ある程度のパワーを望むと……バリアントかな?
「慣れてるから、バリ……」
「ダメダメっ! 八神くんの戦い方なら、レパード一択でしょ?」
俺の選択を、思い切り元気の良い声が撥ね付ける。
白い長袖ブラウスに、濃紺のジャンパースカート。東中学の制服姿も眩しい、この店のお嬢さん。天宮つばさちゃんが、いつの間にか後ろから覗き込んでた。
今日はポニテの髪を降ろして、セミロング。ちょっと大人びた印象だ。
「つばさ、お客様の邪魔をするんじゃない」
「だって、昨日もバリアントの反応を最速にして、丁度良かったのよ? 県大会仕様で、装備が増えたら、レパードでないと対応できないじゃない」
「それはそうかも知れないが……」
渋い顔をした店長に、娘さんはドヤ顔の笑みだ。
腕組みなどしているから、発育の良い胸の大きさがはっきりとわかるな。二度ほど味わってしまった、その感触が蘇って頬が熱くなる。
「県大会は、装備が増えるって……昨日より重くなるの?」
「昨日も少し話したでしょ? 県大会というか……通常のジュニアの大会だと、射撃武器等で重量値2.5までの装備を選べるの。付けないと火力不足で手も足も出ないだろうし、付けるとそれだけ反応は鈍くなるわ」
「なるほど……そうなると、バリアントじゃ辛いか……」
「でも、つばさよ? ある程度力が無いと、八神くんの得意な投げや関節技が極め辛いんじゃないか?」
店長がもっともな疑問を浮かべる。
でも……。
「俺のは合気道なので、あまり腕力は関係ないんです。速さとタイミングが的確なら充分です」
「そうなのか……それなら、機体はレパード改で決定しよう」
最初の選択を終えると、二つの機体が消え、レパード改が大写しになる。
ワンセクション進んで、次は装備品の選択だ。
「普通なら、装備品は銃火器とシールドで、どちらかに重量値の残り半分だけ強力なものを選択するのだが……」
「それは好き好きでしょ? 私みたいに、シールドは重量値半分のバックラーにして、ロングレンジライフルをぶっ放すプレイヤーも居るんだから」
「世の中、変わり者ばかりじゃないんだぞ?」
「ひっど~! 可愛い娘の機体になんてことを言うのよ。八神くん、聞いた?」
表情豊かな娘だなぁ……。プッと膨らませた頬も可愛らしい。
でも、今は女の子よりトルーパーだ。今日の内に形を決めておかないと! あまり遅くはなれないし……。
トルーパーの装備カタログを見ながら、もっと変わり者なことを言ってみる。
「プラズマソードって外せませんか? こっちのビームピストルの方が使いやすそうだ」
「ソードが無いと、接近戦はどうするの? って……合気道があるんだった。でも、ビームピストルだと、威力が弱いから近くで打たないとダメージが少ないよ?」
「たぶん牽制か、ゼロ距離でとどめの時にしか使わないから。間合いが関係なくなる分、剣よりは拳銃の方が良さそうで」
「これは標準装備の選択だから、重量値の範囲外だ。ものは試しで言う通りにしてみよう」
「試してみて気になるようなら、戻せば良いもんね」
映像の中の機体の装備が変わる。
銃とかは全然わからないから、カタログを見てもどうにもピンとこない。ビームライフルのようなものが主流なのだけど……。
対戦台のモニター映像を眺めてみると、ちょうど宇宙空間のステージで戦っている。
小惑星のような物を盾に、ビームの撃ち合い。ビームを躱したりするのって、やっぱり難しいのだろうか?
「うーん……ビームの光は見えるから、得手不得手はあっても、それほど難しくはないわ。全部シールドで受けるわけじゃないもん。長距離ほど躱しやすく、近距離ほど難しいのは想像できるよね?」
「それはもちろん。でも実際に試してみないと」
「機体のベースが出来たら、試してみればいいよ。相手には不自由しないから」
ニヤッと笑ったつばさちゃんが、幾つもの対戦台に群がってるメンバーを見回した。
昨日のトーナメントで見た顔もあれば、見なかった顔もある。ほぼ全員がADトルーパーのプレイヤーなのだろう。
そしてもちろん、制服姿のこの娘もいる。
可愛らしい見た目に反して、ラスボス級の強さで。
「最初は、極端に走っちゃっていいですか? シールドとか無しで、この『スラスター・キャノン』だけを付ける感じで」
「うわっ! 重量値2.5の大口径ビームを選ぶ? 威力はあるけど、それ左右三発づつの六発しか撃てないよ?」
「つばさの機体よりも極端だなぁ。腰の装甲板の延長になるから、機体の動きの邪魔をしないという考えで装備を選べば、解らないでもないが……」
「パパ、百聞は一見にしかずなんだし、試して上手く行かなかったら、また変えれば良いんだから」
勝手に手を伸ばして、機体を確定する。
機体の色は悩んだけど、好みで白とエメラルドグリーンのツートンカラーに塗り分けた。
「最後にスポンサーとして、名前を入れさせてもらうよ?」
店長が胸のグリーン部分と、スラスターキャノンの白部分に、逆の色で『ホビーショップ天宮』のロゴを加えた。
この他にも、大会時はゼッケン番号を書き加えるんだそうな。
「じゃあ、昨日の機体の条件でパラメーターをセットしちゃうね」
ズッと音を立てて椅子をずらして、機体パラメーターの入力を始める。
バリアントとレパードの機体差も頭に入っているのか、迷うこと無く数字を打ち込んでいくのは凄いとしか言いようがない。
「これで機体の基本形は出来上がり。後は実際に使ってみて微調整しよう」
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