心を貫かれてしまった……

 ステージで進行役を努めているのは、俺とそれほど歳の変わらぬ……中学生くらいの女子だ。

 ピンクのパーカーを被って、デニムのミニスカートと紺のハイソックスという出で立ち。足元は活動的にスニーカーを履いてる。

 少し栗色がかった柔らかなの髪を、キリッとポニーテールで結んでいる。

 ちょっと吊り目気味の大きな目に、キラキラした意志の強そうな瞳が煌めく。気の強そうなはっきりした眉と、ぷっくりした唇。

 応える子どもたちの反応からすると、かなり有名な娘なのかもしれない。


「うわぁ、つばさちゃん、やっぱ可愛いなぁ……」

「来年の夏にはお台場で、超大スターになってるんだろうなぁ」


 身を乗り出してる左右の参加者の反応で、勝手に情報が入ってくる。

 なるほど……。あの娘は『つばさちゃん』で、今は中学三年生のADトルーパーの有名な選手ってところか。それも全国大会レベルだな。

 他の連中も撮ってるから、俺も記念にと『つばさちゃん』のミニスカ姿をスマホで撮影しておく。明日、クラスで見せて反応を伺ってみよう。

 どの程度に有名な娘なのか、それで解かるはずだ。自慢できるといいなぁ。


 トーナメント表の端から、順に呼ばれて対戦が始まる。

 アハハッ……わかっていたけど、やっぱり自分の機体を持ってる奴らは強いね。機体の設定以上に、やりこみ具合が違う。

 飛び入り参加に負けられるかって勢いで、ほとんどが瞬殺されて終わる。

 五番目に名前を呼ばれて、俺はステージに向かった。

『つばさちゃん』がマイクを向けてくれる。

 興奮して汗を掻いているのか、横に並ぶとほんのり甘い匂いがした。


「次はえーっと、八神翔やがみ かけるくん。……小学校六年生くらいかな?」

「背は低いけど、中学二年ですよ」


 やっちゃった! とばかりに、『つばさちゃん』が頭を抱えてステージにしゃがみ込んでしまう。

 ムッとしたけど、ミニスカの奥に淡いピンクのギンガムチェックが見えて、頬が緩んでしまった。オーバーショーツくらい履いてるだろうと思ってたから、ビックリだ。


「えーっと、気を取り直して……。ADトルーパーの経験は?」

「今日が初めてです」

「あちゃあ……幸運を祈るよ。お詫びにワンポイントアドバイスしちゃうと、まずは避けることから始めようね。当たらなければ、ダメージは無いから」

「ありがとう。やってみます」

「頑張ってね。相手の佐藤くんは小学四年生ながらも、ゲーム歴一年だよ」


 気休めにもならない応援に送られて、俺はコクピットブースに入る。

 レバーとペダルの位置を微調整されて、ジェットコースターのようなU字型のセフティバーを降ろし、シートに身体を固定された。

 ふぅん……半球状のカバーの内側がモニターになるのか。

 受付をやっていたエプロン姿の髭おやじが、コクピット前のパネルの中心に『バリアント2』と書かれたメモリースティックを差し込む。

 モニターにアニメのヒーローのような、スマートなロボットの機体が描き出される。


「つばさの言う通りだから。まずは避けに徹して頑張れ」


 そのウインクはオジサンからでなく、可愛い女の子に投げて欲しかったよ。

 その可愛い女の子は実況も担当しているから、ステージで対戦モニターを見ながらお仕事中だ。


「手足の動きは脳波に反応して、思い描いたように動くんだよね?」

「ああ、そうだよ。凄い時代になったもんだ」

「それじゃあ、もともと格闘技とかの経験がある方が有利なの?」

「そこが、他のeスポーツと違うところさ。レバーやボタンの操作でなく、プレイヤーの能力が反映されるから、戦い方が無限になる。ADトルーパーがずば抜けて人気なのは、その辺りが理由だろう」


 髭のおっちゃんが離れる。

 それじゃあ、俺のプロレス好きや、爺ちゃんに仕込まれたアレも少しは役に立つのかな?

 役に立つなら、面白いんだけど。


「佐藤くんの機体は、お馴染みの重量型のトルーパー『タルタロスα』。パワー勝負が得意だぞ! 完全初心者の八神くんは、オーソドックスに『バリアント2』と手堅い選択。二人のバトルステージは……宇宙空間だ! これは初心者には辛いか」


 実況の声に、会場からも「ああ……」と溜息がこぼれる。

 何が辛いのか、まったくの初心者には解らないけど、たぶん避けるのが難しいんだろう。

 まあ、物は試しだ。

 試合開始のカウントダウンの間に、ちまちま動いてみて、反応を確かめておこう。

 眼の前にそれぞれ浮かぶカウントダウンのランプが、0になり、消えた時が試合開始だ。

 途端に、タルタロスのゴリラにも似た、マッシブなボディが目の前に迫った。

 慌てて身体を回して躱そうとするが、ショックとともにダメージが入る。

 ダメージに合わせて、シートも揺れるのか。

 クソっ! 左手を持っていかれた。


「重量級のパワーと装甲を信じた佐藤くんの機体は、パラメーターを加速に全振りしてあるのか? スピード型の『レパード』にも匹敵するかのような加速でした。八神くんは腕を持っていかれながらも、よく躱しました」


 ありがとう『つばさちゃん』。なるほど、そういう戦い方をする奴なんだ。

 それにしても、宇宙空間だと姿勢制御にもバーニアを使うから、大きなアクションを取らないと、その場から機体が動かないのか……。

 それを知るための授業料に、腕一本は高すぎるぜ。

 左腕を失った分、動作がギクシャクとスムーズに動かない。

 その機を逃さずに、再びタルタロスが迫ってくる!


(完全に躱すのは難しいか……でも、この機体を狙ってくるのなら!)


 俺はプラズマソードを抜いて右手に持った。

 まだ刀身は作らずに、柄だけだ。

 左足でのカウンターのキックは避けられたが、その影に隠したプラズマソードを発動させる。

 衝撃とともに、俺の機体はキリモミして弾かれた。

 追加で、右腕と左足もロスト!

 くそぉ! これじゃあもう、何も出来ねえや!

 だが、追撃はもう無かった。

 モニター中に、花火が乱れ咲いている。


「凄い! カウンターでのソードがコクピットを斬り裂いて、八神くん逆転大勝利!」


 大興奮の実況の声が飛び跳ねてる。

 えっ? 俺、勝っちゃったの?

 コクピットカバーが上がり、セフティーバーが外れて上がる。

 拍手の中、コクピットを出ると、柔らかいものが飛び込んできた。


「凄い、凄いッ! 本当に勝っちゃうとは思わなかったよ!」


 中三女子としては、平均よりちょっと背の高い『つばさちゃん』だ。チビな俺の身長では、彼女の肩くらいまでしかない。

 その身長差で真正面からハグされると……両頬に丸いものがぷわぷわと。

 ブラカップ越しの柔らかな双丘の感触と、甘い香りに包まれて心臓が跳ね上がった!

 早くに母親を事故で亡くしてるから、親父と二人暮らしの思春期少年には、ちょっと刺激が強すぎる。

 この娘、意外に胸がデカいし……。

 大ブーイングで、興奮から醒めた彼女が慌てて離れたけど、俺は周りからのやっかみで、悪役確定みたいだ。

 まあ、それもしょうがないと諦めよう。

 パンチラ&おっぱいハグと、妬まれるに充分な良い想いをしてるんだから。


 結局、飛び入り参加組で勝利を得られたのは俺だけだった。

 意外に楽しいものだな、ADトルーパーって。

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