Another Dimension トルーパー ~君を追いかけて~
ミストーン
序章
拾ったメダルから始まる物語
「あれ? 何だこれ……」
父親のキャッシュカードから、今月分の食費を引き落としていた
パチスロのメダルは、たいがい銀色だし、ゲームセンターのも同じだ。
子供っぽいキャラクターでも描かれているかと見れば、リアルな鷲のレリーフと、反対側には『ホビーショップ天宮』の文字があるだけ。玩具って感じじゃない。
「このショッピングセンターに、そんな店は入ってないよなぁ……」
意外に重いメダルを指で弾きながら、食料売り場に向かう。
珍しく親父の描いた絵が売れて、金が入ってきたんだ。久しぶりに肉が食える。
たとえそれが豚コマであっても、育ち盛りの俺には堪らぬ御馳走だ。玉ねぎも加えずに、焼肉のタレで肉だけ焼いて食う贅沢よ。
ニヤニヤしながら歩いていると、いつの間にか周りに小学生らしいガキどもが集まっていやがる。何だよ、邪魔くさい……。もう春休みは終わったろ?
「兄ちゃん。会場に行かないんだったら、そのメダルくれよ」
「会場って何の?」
ダァ~ッと、露骨にバカにしたような声。
チビだと思って、舐めるなよ? これでも中学二年生だぞ?
「何のって、
「バカ! 教えなきゃ、貰えたかもしれないのに!」
口の軽い子と、ズル賢いガキの間で仲間割れが起きる。
ADトルーパーと言われりゃあ、俺でも解かった。
eスポーツなんて言われてる対戦型のビデオゲームでも、ずば抜けて人気が高くて、世界規模でプロリーグがある、アレだよな。
専用のメモリースティックに準備したロボットのデータを、対戦機に登録して、プレイヤーが操作して戦う奴だ。
プロリーグに直結するお台場の高校生の全国大会なんて、昔の高校野球の甲子園並みに盛り上がってるもんな。完全に野球に、取って代わっちゃったくらいだ。
親父の稼ぎが悪くて、高校進学できるのかと悩んでる俺には夢のような話だね。
でも、待てよ……。
「なあ、お前ら……会場ってどこよ?」
「……さくら広場」
渋々と、ガキどもが教えてくれる。
俺が踵を返すと、思い切り舌打ちをして、ガキどもが散った。
メダルを利用する奴に付いて行くよりは、新しい他のメダルを探す方が利口だろう。
ADトルーパーなんて、金のかかる遊びはした事がない。
でも、万が一にも俺に才能があったら、高校だってスカウトされて特待生で行けるし、プロになれば億単位の年収も夢じゃないだろう?
世の中、そんなに甘くはないと知っていても、物は試しだ。タダで試せるものなら、やってみて何の損もないんだから。
ど下手なプレイで恥を掻くくらい、何でも無い。
こちとら、天下無敵の初心者だからな。
さくら広場は、ショッピングセンターを横断したエスカレーターホールの一階にある。
行ってみれば、もう大きな観戦用モニターが掲げられ、コクピットブースも備え付けられて、準備は万端整えられていた。
なるほど、『ホビーショップ天宮』って所の主催イベントなんだ。
「メダルを見つけた子は、こっちで参加登録をしないと出場できないぞー」
ショップのエプロンをして、手を叩く髭オヤジに呼ばれるようにして、申込受付に並ぶ。
名前を書いた短冊が、相手だけ書かれたトーナメント表に貼り付けられてゆく。
なるほど。正規の参加者の肩慣らしを兼ねて、飛び入り参加者にも遊んで貰おうという趣向なわけね。
端っから勝ち進むとは思われてない。当たり前だ。
「ADトルーパーのプレイ経験はあるかい?」
「全く無いです。初心者そのものじゃあ、駄目ですか?」
「構うもんか。操作の基本はこの紙に書いてあるから、始まるまでに熟読してくれればオーケーだ。最低でも、移動ができないと話にならないぞ」
「わかりました」
「対戦ステージはランダムだから、時の運。公正を期すため、今日の大会では追加装備無しの素体勝負だ。各パラメーターをセットしてる分、自分の機体を持ってる方が有利なのは当然だな。貸し出す素体の好みはあるかい?」
「初めてだから、ごく普通の奴で」
「では、汎用型の『バリアント2』にしておこう」
手続きは終わったらしく、『バリアント2』と表紙に書かれたマニュアルのコピーを貰った。最低でも、操作と攻撃法くらいは覚えておかないと……。
ふ~ん……左右のレバーで向きを変えて、足元のペダルで移動。手足の動作は脳波コントロール? あのヘッドセットか……高そうだな。壊したら、弁償できねえよ。
武器はプラズマソードという光の剣くらい。
もっとも3Dグラフィックのポリゴンデータで戦うわけだから、本当にプラズマの剣を使うわけじゃない。相応しいダメージを計算したCGのロボットが破損するだけ。
今日のルールだと、一戦するごとにダメージは完全回復できるのだそうな。
そのあたりは、やっぱりゲームだよな。
「お待たせ! メンバーも揃ったみたいだから、そろそろ始めるよ!」
甲高い女の子の声が聞こえて、ステージに目を向ける。
俺の目はそこに釘付けになってしまった。
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