第12話 深き思い、遥かな願いのその先に
「え?それってどういう…?」
「ああ、説明がまだだったな 君の行き先は天国でも地獄でもない」
ケンは立ち上がり部屋を出て私に付いて来るように促した。
薄暗い廊下の向こうに僅かな明かりが見えた。
突き当りまできて、そこにある扉を開ける。
「え?これってどういう…?」
眼下にそびえる塔のような建物に大勢の人が列を作っていた。
中には眠っている人、本を読んでる人 みんな様々な様子で並んでいた。
「彼らは天国への説明会に参加する者達だ。」
「説明会?」
「あぁ、これからここで暮らしていく事になる
その為のルールや生活方法などについて詳しく説明を受ける場所だ。」
「しかし今、私の同僚が体調を崩しててな
司会・進行はその代わりの者が代役を務めている」
「同僚?やっぱり社員やん、さっきも部下の女の子居てたし。」
「違う、ここは別に会社ではないからな まぁそんな事はどうでもいい」
「見ての通りの大盛況ぶりだ 代役で慣れてないのもあるのだろうが
会場に入るまで早くて一時間、いやそれ以上かかるかと思われる」
目の前に広がる光景にポカーンと口を開けながら私はケンの言葉に耳を傾けた。
「実は君は天国へ行ける資格を有している」
「だが見ての通り今はキャパシティー的にも満杯な状態だ」
何か考え事をしているかのような表情で
ゆっくりとケンは口を開いた。
「君にはもう一度地上に降り生を受けてもらう」
美味しいもの食べるのは好きだけどここまでの行列に並ぶ覚悟はない
そしてふと浮かんできた疑問をケンにぶつける
「それはもう一度、私、中村理沙として人生をやり直せるって事?」
「父さんや母さんにまた会えるって事?」
「それは出来ない」
「一度生まれ落ちた人間に再び同じ人生を歩ませる事は許されない」
「同じ歴史を作る事、つまりそれは過去を複製する事になるからだ」
「そしてそれは我々の業務にも大きな混乱をきたす禁忌事項だ」
つまり『過去は変えられない』という事だ」
「だがしかし…
ここまで長時間歩いてきたせいだろうか
急にどっと疲れが出たのか私は少しずつ
特に大きな悪さもしなかったけど
何一つまともな親孝行出来なかったのがやっぱり心残りやな…
友達とはつまらない喧嘩して結局謝れなかったな…
今さら後悔しても遅いけど。
そう言えばさっきのメニューにアイスクリームもあったな。
甘いものは別腹って言うし食べときゃよかったな。
あれ、携帯のアラームが鳴ってる?
どこやったっけ?
えっと、カバンの中に置い…て…きた、か…な…
……
……………。
『未来は変えられる』
遠ざかる意識の中、遥か遠くに響く心地よく優しい声を胸に
私は深い眠りに落ちていった。
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