第2話 確率のライン


「まぁ、色々あるがまず何か聞きたい事はあるかい?

 私が答えられる範囲で伝えよう」

「立ち話もなんだ、付いてきなさい」


そう言うとケンは私をその建物に招き入れ小さな部屋へと案内した

部屋の中央には白いテーブルが有り、その椅子に腰かけながら

卓上にあった資料のような数枚の紙に目を落とした。

うつむきながら私もその向かいに座る。


「私、なんで死んだんですか?」

「死因は…病死だ。少しは覚えてないかい?」


私はゆっくりと思いを巡らす。断片的な記憶のかけらが

ゆっくりとパズルのように組み合わさっていく。


「あぁ…」

思わず天を仰いで吐息が漏れた。

「病室で…眠ってて、何かの夢を見てた 内容はよく覚えてない

 楽しくも悲しくもないけど、とにかく長い夢だった気がする」


「無理もないな、まぁよくある事だ」

「君は10日程、生死の境界を彷徨さまよっていた

 事故死や突然死のように一瞬でそのラインを超えれば生前の記憶は

 鮮明なままここにやってくる」

「だが君のような場合、生前の記憶が曖昧になる事は多々ある」



ケンは二枚目の資料に目を落とす。


「5000か…」

ケンは深く息をついて何処か遠くを見つめながら

横にあった飲み物…コーヒーだろうか?に口をつけた。


気づけば私の目の前にもそれは用意されていた。

私は脇に置いてあった砂糖とミルクを加えてゆっくりとかき混ぜる。


「君は難病、約5000人に一人に発症する病気で死亡した」

 悪く思わないでくれな、こればっかりはうちの上司が決めた事だ

 俺には何の権限もない、ここに来た死者を導くのが俺の役目だ」


「はい。悔しいけど、辛いけど…」

声にならない声で精一杯、私は答えた。

「それが私の運命だったのなら、受け入れようと思います」


「そうか、では話を続けよう」


その時、ふと私達の目の前に長髪の女性が現れ

ファイルのようなものをケンに手渡した。

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