天国のランチは2時間待ち

むふろん

第1話 迷子


「おなかすいたな どっかに何か食べるとこないかなぁ?」


深い霧の中を歩いていた。

最近寒さが厳しくなってきたので、何か温かいものでもあればと私は店を探した。

彼此かれこれ一時間くらいずっと見覚えのない単調な景色が続いている。

駅から離れて結構遠くまで歩いたので道に迷ったのかもしれない。


「ほんまに何もないなぁ 殺風景すぎて余計におなかすくわ」


空腹を紛らわす為に自分にしょうもない悪態をつきながら呟く。

少し霧が晴れてきて私の目の前に白い扉のある大きな建物が見えた。

ゆっくりとその扉に近づく


「一応、冷暖房エアコンは完備してるぞ」


どこからともなく声が聞こえてきた。

振り返ると胸に大きなバッジをつけ、首にカードを

ぶらさげた黒い制服のような服を着た男がこっちを見ていた。


「あ、ここの社員さんですか? この辺に何かあったかいもの」

「社員ちゃうわ! ん?まぁ言われてみれば実質そんなもんか?」


自問自答する男を見つめながら、何も分からずきょとんとしてる私に

その男は語った。


「No.516  中村理沙なかむらりさ 運送会社事務員 享年36歳」

「父:譲司じょうじ、母:絵里えりとの間に長女として日本に生まれる」


ぽかんと口を開けたままの私に男はさらに続ける。


「好きな食べ物は麻婆豆腐 苦手なものは絶叫マシン 愛犬の名前はそら」


「そやな中華やったらこれ一択、ごはんが進むおかずナンバーワンや…」

「って、ちょっと待って!何で見ず知らずのあんたがそんな事知ってるの?」

 個人情報だだもれしてるやん!」

「てか、今、享年って言った?え?何!?どういう事?」


男は深く息をつき、私を見つめながらゆっくりと言った。


「そういう事だよ」


全く理解が追い付かず、頭が真っ白になって私は何も言葉が出なかった。


「紹介が遅れたが私はここ煉獄れんごくの案内役兼その他雑用係、ケンという者だ」

「君は昨日死んだ 現在君の今後の処遇をこちらに届いた書類を元に審査している

 ここはその待機所みたいなものだ 結果が出るまでそこで暫く待っていてくれ」


「そんな、何で…」

「詳しく知りたいかい?まぁこれは任意なので説明を省く事も出来るが」

「お願いします。」


息がつまりそうな程震える胸を押さえ私は声を絞り出した。


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