容赦なき粛清(後編)

 刑務所の中で私が聞いた情報をもとに理解した、ことの顛末。


 あの日、テヴューの襲撃の日。我々が掴んでいた「テヴューが廃駅に現れる」という情報は、間違いでこそなかったが、現場で炎に包まれた同志の言葉通り、裏組織クヴァトによって意図的に掴まされたものだった。


 そして地下組織レジスタンスのリーダーもそのことを知っていた。

 こちらは我々とは違い、情報を掴まされたのではなく、地下世界アンダーグラウンドの有名な情報屋から買い取った、正しい流通路ルートから情報を手にしたようだった。


 それでも敢えて私を動かしたのは、自身の率いる組織の中に蔓延っている我々のような異物を排除するため。

 そしてまんまと情報に踊らされ、廃駅を訪れた大帝愛国団グランカイザーの同志達はクヴァトによって壊滅させられ、私もテヴューによって粛清される一歩手前であった。


 しかし、襲撃のことを知っていた地下組織レジスタンスは我々が攻撃を受けてから、遅れて現場に到着。逆にクヴァトの人間を倒し、テヴューも彼らを指揮していたらしいタハラという男と死闘を繰り広げ、遂にはお縄についた。


 生き残った我々も警察の手に渡り、こうして刑務所の中へ、というわけだ。


 実際、こうして我々が──いや、私がしでかしたことをまとめると、確かにテヴューに愚か者の王フールキング揶揄さディスられても仕方のないことだったと、顔から火が噴き出る気持ちだった。何と忌々しいことか。


 刑務所の中でも、アウトホールシティの抗争は終結し、裏組織クヴァト偉大なる興行主ザ・グレイテストショーマンズも壊滅したという噂は届いた。


 今は地下組織レジスタンスが組織を立て直し、街の再建に力を入れているのだと聞く。市長も今では、地下組織レジスタンスの存在を認め、街をよりよくする為の好敵手ライバルとして、彼らを街の政治に参加させることにしたそうだ。


 ――なんてことだ。


 その立ち位置には、我々が座る筈だったというのに、愚かを晒しこうして塀の中で口惜しい思いをする他ないとは……。


 だが、これで終わりにしてなるものか。

 地下組織レジスタンスの連中にも、あの場で私を虚仮こけにしたあの猫達にも報復する必要がある。


 ──本気で一世一代の博打を打つというのなら、もうちょっと慎重に行動せねばなるまいな。


 地に伏せられた私に、テヴューが口にしたそんな言葉を思い出す。まさにその通り。

 私は功を焦るあまりに、慎重さに欠けていた。

 幸い、塀の中にも同志になりそうな者達は少なくない。看守達もまた、仕事熱心ではあるが、彼らがたまに零す愚痴を聞けば、未だにこの街に対して不平不満の種が残っていることは当然明らかだ。


 ――きっと、今からでもやり直す。


「なあ君、この世界に不満はないか?」


 私は刑務所の食堂の中、沈んだ顔で食事をしている囚人仲間に声をかけた。

 正直なところ、テヴューを襲撃した頃の私には柔軟さが足りなかった。地下組織レジスタンスの連中を嗤う資格などないほどに。


 その境遇や生まれから仕方なく犯罪に手を染めなくてはならなくなってしまった。そんな犯罪者はこの街には少なくはない。

 勿論、クヴァトのようにもう後戻りすらできないほどに黒く染まってしまった悪人も大勢いるが。だが、刑務所内にいるほとんどの罪人は好きで犯罪に手を染めたわけではない。人は生きるためには何でもする。


 きっと私の声が届かないことの方が多いだろう。だが、その中に一人でも。

 一人ずつでも我々、大帝愛国団グランカイザーの理念に共鳴してくれる同志を集めていけるのなら。


 我々はまたやり直せる。そして次こそ我々の時代だ。


 助護センターを襲撃してから後も、屈辱に耐え忍ぶことには慣れている。

 そうなれば、次に粛清されるべきは我々ではなく、我々を利用した愚か者共フールズだ。


 私は刑務所の中でそう決意し、新たな同志を見つけ、いつかの復讐を待つことにした。




……To be continued.


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