Chapter13:Uncompromising Mouse

容赦なき粛清(前編)

 千載一遇の好機チャンスとはこのことだ。

 街の様子を見ながら、私はそう感じていた。

 今、この街で起こっている裏組織クヴァト偉大なる興行主ザ・グレイテストショーマンズというこの街の二大勢力が抗争を始めている。


 クヴァトの首領ボスはどこぞの鉄砲玉にやられて昏睡状態。若頭のルベンも死んだ。


 この混乱に乗じて、我々が、大帝愛国団グランカイザーのジェイク・ダガーフィールドが頭角を現す時が来たのだ、と。


 世間の連中は我々のことを排斥主義者テロリストだと揶揄するが、それはものの見方の違いというものだ。

 本来、この地に存在していたのは他国の追随を許さぬ、強い国家であった。


 それが今、戦争ザ・ウォーの終結と共に帝国は滅び、代わりに犯罪者に機械人間サイボーグ人造人間アンドロイドだの亜人だのと、多くの人種が蔓延る混沌の坩堝となってしまった。その象徴がこの街、アウトホールシティだ。


 この過ちを、誰かが正さねばならない。


 犯罪者達が支配するこの街にも、その現状に不満を持つ者は少なくない。

 彼らは地下組織レジスタンスを結成し、この街を犯罪者達の手から奪い返そうとしている。

 

 大帝愛国団グランカイザーも彼らの意思に同意し、今は彼らに協力しているが、それも単なる目的の一致のために過ぎない。

 地下組織レジスタンスには本来、この地から追い出さなくてはならない移民達も多く在籍している。自覚はないのかもしれないが、この街の癌である彼らと真の意味で同じ空気を吸い続けることはできないのだ。


 だが今こそ。

 今こそ我々、大帝愛国団グランカイザーが覇権を握り、この街の支配構造を大きく変える時だ。


「ジェイク、準備はできたぜ」


 同志ナタナエルが斥候から帰って来た。

 どうやら良い知らせを持ってきてくれたらしい。


「明朝、クヴァトの顧問、テヴューが遂に姿を現すんだ。首領ボスも消え、若頭アンダーボスも死に、次いで顧問までいなくなったとあっちゃあ、この街をクヴァトが掌握するのはもう無理さ。興行師ショーマンの一団も、所詮は剣闘士ファイターなんてのを当てにしている曲芸師集団サーカスでしかねえ。これまで耐え忍ぶ日々を送って来た俺たちの活動が、遂に報われる日が来たんだ!」

「ああ、喜ばしいことだ。だがナタナエル、御託は良い。まずは状況報告だ」

「そうだったな、いけねえ」


 ナタナエルは自分を恥じるように鼻先を擦ると、咳払いをしてから言葉を続けた。


「顧問のテヴューが現れるのは、地下世界アンダーグラウンドに向かう道中にある廃駅。そこで、手下どもを集めて、何かを予定しているらしい」

「何かってのは?」

「そこまではわからなかった。だが、テヴューが現れるってのは、裏組織クヴァトに潜伏させている俺たちの同志からの確かな情報だぜ。現在、街中に散らばっていた大帝愛国団グランカイザーの同志に声をかけて、既に駅の周辺でスタンバイさせている。テヴューがどれだけやり手であろうと、居場所がわかっていて、あれだけの人数を集めて突っ込めば、どうってことはねえ」

「よくやったナタナエル。後は私に任せたまえ。地下組織レジスタンスの連中にも私から声を掛けておく。頭の固い奴らのことだ。全員の突入は無理でも、何人か懐柔することはできるだろう。ふふふ、明日の朝が楽しみだな」


 私はナタナエルを下がらせ、持ち場に戻らせた。

 走るナタナエルを見ながら、彼の言っていた言葉を思い出した。


 ──耐え忍ぶ日々を送って来た俺たちの活動が、遂に報われる日が来たんだ!


 正にその通り。何年か前に、同志達が街を浄化の為、助護センターという施設を占拠したことがあったが、それはその場に居合わせた、人殺しも厭わぬイカれた犯罪者のために失敗した。本当ならば、あれを足掛かりに我々の存在を世間に知らしめることで更なる同志を集い、この街から世界を変えていけることだってできたのだ。


 あれから数年。我々は辛酸を舐めてきた。


 街を犯罪達から奪えるようなこれという機会もなかったが、此度こそ我々の勝利、我々の時代だ。


 私は早速、地下組織レジスタンスのうち、信頼できるメンバーに明日の襲撃のことを伝えた。予想通り、全員は乗って来てはくれなかったが、それでも50人の兵を集めることができた。

 ナタナエル達同志達が集めた者も含めれば百人を超える大人数だ。

 テヴューを亡き者とし、クヴァトを滅ぼす。


 そして我々の時代が始まるのだ!

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