薔薇の約束(後編)
部屋を出て階段を降り、店の外に出ると、店の前に、一匹の猫がちょこんと座っていた。
「遅かったっスね、クソヴァイパー」
猫の口元から、よく知る人間の声が響いた。
「ロビンか。わざわざ出迎えかよ、悪いな」
「中で何やってたんだよ」
「変なことは何もやってねえよ。情報をもらっただけだ」
俺は店の前まで見送ってくれたローズの方を振り向く。ローズは来た時とは違い、俺の目の前に手を差し伸べた。俺の方も、遠慮することなくその手を取る。
「
「ああ、また来る」
「また来るって何スか!?」
「やっぱり、そういうお店ですし……ヴァイパーさんも男の人ですし……」
「え、ヴァイパーさんも興味あるのこういうところ? そうかー、お楽しみでしたね」
猫に取り付けられた発声器から、ロビンだけじゃなく、小さくスノウとノエルの声も聞こえる。
この二人は俺が
「お楽しみ? お楽しみって何なの、ヴァイパー!?」
……カインもいるじゃねえか。ついさっき、ここにカインは連れてこれねえなと思ったばっかりだってのに。
どうせ爺さんの差し金だろ。全く、あの人も大概のところお節介だ。
「お前らな」
「モテモテじゃねえか、ヴァイパーさん」
突如、ローズは俺の顔を頬を自分の顔に引き寄せた。そのまま口を俺の頬につけ、小さく唇を弾かせる。
その様子を見ていたロビンの猫は毛を逆立てて、その場で大きく跳ねた。
「今のはサービスだ」
「遊ぶな、めんどくせぇ……」
俺は改めてローズに手を振ると、
その後ろを、ロビンの猫が着いてきて、猫の口元のスピーカーからギャアギャアとロビン達が騒いでいる様子が聞こえてきたが、無視した。
寄り道することなく、
「なあ、ヴァイパー。情報は手に入ったのか?」
少し冷静さを取り戻したのか、下水道を見下ろす俺に猫を通じて、ロビンがそう尋ねた。
「ああ。そっちはバッチリな」
「あそこの店長、あんたを連れて来いつってたけど、ホンットーに何かされてないのか?」
「何かってなんだよ。ああ、情報の対価に条件は出されたけどな。まあ、それも大したモンじゃなかったよ」
俺はコートの中から、ローズに受け取った指輪の箱を取り出す。そして箱の中の指輪を二つとも手に取った。
「それは?」
「その条件、かな」
俺は指輪を勢いよく流れる下水道に向けて放り投げた。
指輪は宙に浮いたほんの一瞬だけキラリと反射して光り、濁流に吞み込まれる。
ローズに何も言わずに勝手にまずかったか、とも思ったが、少しだけ喉のあたりにひっかかっていた小さなつかえがスッと落ちるような気分だった。
「なあ、ヴァイパー。だから今のなんだってば」
「教えてやんね」
「はああ!? 何それ、マジふざけんなよクソヴァイパー! 死ね!」
ロビンのいつもの罵倒を聞き、さすがに俺の指輪を買い取ってくれたって分くらいの金はローズに落としてやるか、なんて考えながら。
今の俺には俺の人生がある。過去に何があろうとも、俺がそう望み、命が続く限りにこの人生は続くのだ。そして幸運なことに、そこにはやかましいほどの仲間達がいる。
「ロビン。それにスノウとノエル、後はカイン。帰るぞ」
俺は仲間達の名前を口にして、ゆっくりと帰路についた。
……To be continued.
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