美しき哉この時代(後編)
メアリーの打ってくれた電子広告の効果は絶大だった。
昨日、サイレントコントを披露した街頭のちょうどその場所、そこで新作を披露するという広告を打ったのだが、少しだけ内容を攻めた。
すると、今度はオレがボロボロの服を着た路上生活者の格好をして、デモのプラカードを持って抗議する、という内容。
続きは街頭で! の宣伝文句と共に電子広告を流したら、なんと道から溢れんばかりの客が集まっている。
「こりゃ腕がなるな、メアリー」
『ええ。最高のパフォーマンスをしましょう』
オレとメアリーが路地裏から姿を現すと、集まった観客が一斉に拍手をする。
ここに集まったのはおそらくオレと同じように、オーナーのような傲慢な人間に居場所を奪われた人々だ。
オレの芸は、そういう奴らにこそ笑いを提供し、余裕を与えてやる。
オレは観客の期待通りに、広告に流れたのと同じようにパフォーマンスをし、広告の続きを披露した。
デモのプラカードを持った路上生活者を模したオレの後ろから、メアリーが用意した
抑圧された街の中、響いた観客は少なくなかったのだろう。そこまでの展開を見て、観客からサイレントコントが始まった時以上の大きな拍手の雨が響く。だが、それと同時に、あの日と同様に銃を手にした黒服の男達がオレに向かって銃口を向けるのも見えた。
「ちょいと失礼!」
どこかから、そんな声が聞こえる。
するとその瞬間、ピカリと閃光が辺りを包んだ。前が何も見えない。だが、そんなオレの手を誰かがひいた。
「こっちだ!」
「待て! メアリーが!」
「メアリー?」
『ジョニィ、私は心配いりません。
オレの手を引いた誰かは一瞬その足を止めたが、メアリーの言葉を聞くと、すぐに走り出した。オレも何も見えない中、導かれるままに着いていく。
後ろから確かにメアリーも着いてくる車輪の音が聞こえた。
何度も右折左折を繰り返し、オレの手をひいた誰かはピタリと足を止めた。
「どわッ!?」
いきなりのことにオレは対応し切れず、そのまま走り続けて壁にぶつかってしまった。
『ジョニィ、こんなときまで
「ちっげぇよ! この人がいきなり立ち止まったから! ……お?」
オレは目をパチパチと瞬かせた。気付けば、ボンヤリと前が見えるようになってきている。
「アンタ、劇場でジェレミー・レビエンソンの芸やったってんでマフィアに追われてる
ジェレミー・レビエンソンとは、オレが尊敬する
オレが劇場から逃げ出すことになったあの日にオレが披露したのは、そのジェレミー・レビエンソンを真似たものだった。
「ああ、そうだ。オレは
オレを連れ出して黒服達から救ってくれたのは、短髪の健康そうな女だった。
「わたしはロビン。わたしの知り合いがらアンタのファンでね。きっとまた狙われるだろうからって警護してくれってさ。全く、
「そりゃあ、ありがとう」
ロビンの言う、オレのファンというのが誰か何となく、検討がつくような気がした。
ロビンは壁にぶつかったが問題なく意識の保っているオレの顔を覗き込むと、続けて言葉を紡いだ。
「そこであんたにわたしからも依頼があってね。もちろん、
オレは思わずメアリーの方を見て、にやりと口元を歪めた。
ほらな、やっぱり。
ファンに救ってもらった命、大事にしていたら大仕事が舞い込んできたとさ。
オレの使命はみんなを笑顔にすることだ。
「乗った。その仕事、笑えるんだろうな?」
オレはロビンに向かって、こちらから協力を申し出る握手を差し出した。
……To be continued.
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