美しき哉この時代(中編)

「これで良し」


 オレはゴミ捨て場に打ち捨てられていた清掃代行機械ハウスキーパーロボットを拾い、何とか自分の根城にしている路上生活者の溜まり場まで持ってきた。

 そこで機械に詳しいという路上生活者仲間を探し、さっき芸で稼いだお金全部と引き換えに電源の切れて動かなくなった清掃代行機械ハウスキーパーロボットを修理して貰うと、紙と木の枝と他に捨てられていたガラクタで組み上げた自分の家まで連れて来て、電源を入れた。


『こんにちは。初めまして。あなたの居場所を綺麗にする清掃代行機械ハウスキーパーロボットです』


 オレが拾ってきた清掃代行機械ハウスキーパーロボットは、電源を入れるなり、そんな風に音声を発した。


「オレだ。オレだよメアリー。ジョニィだ。わかるか?」

『メモリーを検索。メアリー・ジョニィという名前の使用者ユーザー登録はありません。使用者ユーザー登録を行いますか?』


 オレはガクリと肩を落とした。

 そりゃあそうか。清掃代行機械ハウスキーパーロボットが捨てられたということは、それまでに記録していた情報データの全てが初期化された、ということだ。

 たとえオレの目の前にいる清掃代行機械ハウスキーパーロボットが、オレの知るメアリーだったとして、オレのことを覚えている筈がない。


「お前は劇場が閉鎖した後も、派遣先が決まってたって聞いたけどな。何があったんだ」

『メモリーを検索。以前の派遣先の情報データは残されていません』

「そっか。まあ良いや。オレはジョニィ。お前はメアリー。昔、オレ達は同じ職場で働いてたんだ。けど、お前の記憶は全部消されちまったみたいだな」

『ジョニィですね。使用者ユーザー登録を行いますか?』

「ん? ああ、そうだな。頼む」


 昔は使用者ユーザーというわけでもなかった。

 ただ単に、同じ劇場で働く仲間として、オレはメアリーに一方的によく愚痴をこぼしたし、メアリーはそんなオレに対し、励ましの言葉をかけたり、逆に仕事が残っていると塩対応ですぐにその場からいなくなったりしたものだ。

 それが人工知能の用意する受け答えだなんてことは、言われなくてもわかっている。

 だけどそんなことは関係なく、メアリーはオレにとって掛け替えのないだったのだ。


『メアリーというのは、この機体の個体名でしょうか』

「まあ、劇場ではオレが勝手に呼んでただけだけど、そう。あれ? あん時も最初の方に同じようなこと聞かれたんだっけ? 覚えてねえや」

『了解しました。個体名メアリーを登録いたしました。メアリー、何だか懐かしい響きです』

「そっか、そりゃあ、良かった」


 それもまた、人工知能がオレのために選んだ受け答えなのだとしても、その言葉を聞いて、少しだけ気分の上がる自分がいた。


『それではジョニィ。私はどこを清掃すれば良いでしょうか』

「そうか、清掃代行機械ハウスキーパーロボットだもんな。でもここは路上生活者の溜まり場だし……勝手に掃除しても怒られるのがオチだしな……そうだ、明日の朝空き缶拾いにいこう。清掃が本業のメアリーがついててくれれば、きっと空き缶空き瓶も他の奴らより集まるだろうぜ」

『それでは本日の業務はありませんか。なければスリープモードに移行します』

「ああ、それで構わないさ。おやすみメアリー」

『おやすみなさい、ジョニィ。また明日』




 次の日の朝、オレとメアリーは公園まで出向き、空き缶空き瓶拾いをした。流石のメアリーは次々と公園のゴミを拾い集め、いつと以上の成果を短時間で上げた。

 とは言え、メアリーのバッテリーも当然ただではないので、このままメアリーを稼働させ続けるなら収支はプラマイゼロどころか寧ろマイナスだ。

 しっかりと、芸人コメディアンとしての活動でも稼がないといけない。


 オレはメアリーとのゴミ拾いを終えると、ぼちぼち集まってきた公園の来訪者に向けて、ジャグリングやバルーンアートを披露した。


 昨日の街頭ほどではなかったが、観客も集まり、硬貨も集まる。

 これ以上は客を待つより動いた方がいいかな、そう感じ、メアリーと共に公園を後にしようとすると、メアリーはその場で質問をしてきた。


『今のは、ジョニィのパフォーマンスですか?』

「ああ、そうだよ。芸人コメディアンとしての皆を笑わせるのがオレの仕事」

『お客を集めたりはしないのですか?』

「? 集めてたろ?」

『そうではなく、広告を打ったりはしないのですか?』

「それができりゃする……待て? もしかしてお前、できるのか?」


 清掃代行機械ハウスキーパーロボットの機能は確かに清掃が第一ではあるが、こうしてオレと会話ができるように、それだけに機能が限定されているわけではない。


『ジョニィが望むなら、電子広告を打つことは可能です。打ちますか?』

「マジかよ、最高じゃねえかメアリー! いや、ちょっと待てよ?」


 流石に電子広告なんて出して客を集めたら、オレが劇場で市長とオーナーを揶揄した芸人コメディアンだと秒でバレるか?

 いや、せっかくメアリーが申し出てくれたんだ。無碍にはしたくない。


「だったら思い切ってみるか」

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