とあるジャーナリストの手紙(後編):双子の研究と市長の闇

 そして第三の真実。君が一番欲していたのは、今まで述べてきたようか大仰な知識ではなくてこれだろう。

 アウトホールシティにて、この死者の国アストラルワールドの研究をしていた研究者が一人、存在していた。


 彼女はかつて、新興国の研究結果を狙っていたうちの一国の末端研究員だったそうだ。

 若い頃に見た死者の国アストラルワールドの研究論文が忘れられず、この街に流れついても尚、研究を続けていたらしい。

 その研究者には双子の養子がおり、彼女の研究に協力していたらしいことが、周辺住民への聞き込みから分かったよ。やはり今も昔も、重要な情報は足で稼ぐに限るね。

 その名前もわかった。


 彼らの名は、カインとアベル。


 養子に聖書に登場する、仲違いした兄弟の名前を付けるなんて悪趣味にも感じるが、まあその辺りのことをボクが言っても仕方ない。


 そう。一人は、君の相棒と同じ名だ。

 死者の国アストラルワールドの研究をしていた養子の名前と、君が連れ、死者の匂いを感じることの出来る少年とが同じ名前。

 偶然なわけはないよね。


 きっと、カインはその研究者のもとを何らかの理由で離れ、スラム落ちしたんだ。そこを君に拾われたのは不幸中の幸いとでも言うのかな。


 その研究者には児童虐待の恐れがあり、近隣住民からの通報を受けて当局に逮捕されたらしいが、これがどうもキナ臭い。


 何故なら、近隣住民の誰もからだ。


 当然、自分が通報したことを知られたくないと隠しているとか、当局に口止めされているという可能性もあるが、そこに合理的な理由あると思うかい?


 これはボクの推測に過ぎないが、おそらく研究者は当局に消されたんだ。それもカインの目の前で、だろうね。その時のショックで、カインは記憶障害になったと考えると自然だ。

 研究者は当局に消されそうに中、自身の養子であるカインを命からがら逃がしたんだろう。もう一人の養子であるアベルの行方まではわからなかったが、これも見つからないということは既に死亡している可能性が高い。


 何故ボクがそんな推測を立てるのか?

 それが第四の真実と関わる。いや、これもまたボクの推測であり、真実というには少し淡過ぎるかな。


 アウトホールシティの現市長は死者の国アストラルワールド研究のことを知っている。


 この街は独自のローと独自の機構システムで動く場所だが、それ故に市長の力もまた大きい。我々、一市民はそんなこと、普段は知ることもないがね。


 だが、気にしたことはないかい?


 大戦争ザ・ウォー後、この街が繁栄を続けることが出来たのは何故か。

 裏組織クヴァトによる自治か? 偉大なる興行主ザ・グレイテストショーマンズによる資金力か? そんな裏側の権力もまた、この街の繁栄に必要なモノであるのもまた、事実だろう。


 けれど、やはりそこにも真の理由がある。


 市長は大戦争ザ・ウォーを生き残った死者の国アストラルワールド研究に関わった官僚の一人だった。研究者として研究に深く関わったわけでもない、けれど幹部として研究を統括する立場でもない、そんな存在だった若き日の市長は、失われた死者の国アストラルワールドの研究成果を手に入れやすい立場にいたとボクが推測しても不自然ではないと思わないかい?


 結局のところ、市長が裏社会の縄張り争いにあまり手を出そうとしない、それどころか裏組織クヴァト偉大なる興行主ザ・グレイテストショーマンズ商売シノギを街の産業構造に取り入れ、積極的に介入している節さえあるのも、おそらくはその真実を探ろうとする者をいつでも逃さないようにする暴力が欲しいからだ。


 市長は死者の国アストラルワールドの研究成果を秘匿し、独占したい筈だ。


 だからこそ、この街で死者の国アストラルワールドの研究をしていたカインの養母を許さなかったのだろう。その為、児童虐待の容疑を着せて研究成果ごと、その存在を抹殺した。ボクはそう睨んでいる。


 それが真実なら、カインの力をあまり使い過ぎるのも問題かもしれない。

 カインの死者の匂いを嗅ぎ取る力の噂が広まれば、そこに死者の国アストラルワールドの研究を市長が嗅ぎつけるのも時間の問題だろうからね。

 だから、君の事務所の噂が広まるのもあまり良いこととはボクは思っていないんだ。

 とは言え、遅かれ早かれ君はこの真実と向き合わざるを得なくなるのかもしれないがね。その時はボクと微力ながら協力しよう。

 最後に少し人質めいた真実を述べてしまったことは素直に詫びよう。

 ただ君も知る通り、ボクも慈善事業をやっているわけじゃない。このくらいの保険は許してほしいところだ。

 

 この街には数多のタブーがある。


 君にこのことを明かしたのは、カインの出自を出来ることなら探ってほしいという君の頼みを聞いた見返りに、ボクの取材を手伝ってほしいからだ。


 これらの真実を知り、同じように仕事ができる相手というのはそう多くはないからね。

 ただ、君がこの手紙に書かれていたことを年寄りの戯言、愚かな陰謀論だと判断するのなら、やはりこの手紙は薪に焚べてくれ。


 だがもしも、しっかりと情報の対価として君がボクへの協力を惜しまないというのなら、この手紙を今度ボクと出会った時に返して欲しい。

 当然、手紙の複製コピーなんかを残すのも禁止だ。


 それでは。

 良い返事を期待している。



 ──愛する孫、ヴァイパーへ。

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