参考文献3

とあるジャーナリストの手紙(前編):死者の国(アストラルワールド)研究

 死者の国アストラルワールドの研究は、戦前より新興国で盛んに行われていた研究の一つだ。

 元連邦国家圏や大帝国では大きな研究費の提供をとてもではないが見込めない研究であれ、新興国はその生命応用工学サイバネティクス技術の発展によって潤った資金力を、こうした研究に対してもふんだんに投入した。


 結論から言うとヴァイパー。君の相棒カインの来歴はまず間違いなく、そういった研究の延長線上にあると断言しよう。


 君の相棒が嗅ぎ取っているという死の匂い、それこそ彼らが研究していた、死者の国アストラルワールドから漏れ出る情緒周波アストラルウェイヴに他ならない。


 君はもしかすると、真実を追求するジャーナリストのボクともあろう者が、そんな眉唾物の話を何を得意げに語っているのか、と思うかもしれない。その気持ちも理解する。だが、これは何もオカルトの話ってわけじゃない。

 新興国の莫大な研究費を元にして、科学的に真面目に研究されていたことだ。


 おそらくはカインは彼らにしてみれば、霊体としての働きも不充分な欠陥品だろうね。それとも、霊体だなんてまた理屈に合わない言葉だと思うかい? 


 ──この研究は、あの大戦争ザ・ウォーにも関わるダブー、つまりボクの得意分野の話でもある。

 可愛い孫の頼みだから、ボクもかなり深入りして調べたよ、と言いたいところだったけど、実際、このことはボクが長年調査していたことと直結していたってわけさ。


 この手紙を電子形式ではなく、君もお気に入りの紙媒体、アナログ方式で残したのは、万が一、当局にこの手紙がバレでもしたら君もカインも直ぐに狙われることになるからだ。死者の国アストラルワールドの研究はそのくらい、タブー中のタブーなんだよ。


 それを前提に以下の内容は読んでくれ。もしも君が怖気付いて、これ以上のことは知りたくないというのなら、この手紙は薪にでも焚べてやったら良い。


 ──覚悟はできたかい?

 それじゃあ話を続けよう。


 まず一つ目の真実。新興国が大帝国から糾弾を受けたのは、あの新興国が連邦国家の解体により力の膨張を抑える者のいなかった大帝国への抵抗勢力レジスタンスの温床になっているとの疑いを受けたから、ということになっている。

 それは間違いではないが、真相としては30点だ。

 大帝国が新興国を目の敵にした、もっと大きな理由。それは、新興国が死者の国アストラルワールドの研究に成功し、その交信とエネルギーの抽出に成功したからだ。


 つまり、大戦争ザ・ウォーの最大の原因は、敵のいなかった筈の大帝国が、新興国が手に入れそうだった死者の国アストラルワールドを独占しようとした為。


 あの戦争は本来、義体置換者サイボーグ人造人間バイオロイドの実験場だったというだけじゃない。新時代のエネルギー戦争だったわけだ。

 各国で起こっていた抗戦運動テロリズムも、その全てが新興国の手によるものではなく、死者の国アストラルワールドのエネルギー抽出成功の噂を聞いた世界各国の諜報戦であり、争奪戦だった。


 その新エネルギーはシャクティと呼ばれていたようだ。ヒンドゥ教の言葉でエネルギーや性力なんて意味の言葉だ。なかなか洒落ている。


 そもそも死者の国アストラルワールドとは何か?


 文字通りの死者の国。文字通り、人間の精神エネルギーが行き来する、我々が存在する次元とは別階層にある場所である、とされている。

 ボクも専門家ではないから特別なことまでは断言できないがね。


 かつてはオカルトだったその死者の国アストラルワールドとの交信方法を発見した新興国は、順調に研究を進め化石燃料や生体バイオ資源なんて目にはならないエネルギーの埋蔵を見つけたことになる。

 そのエネルギー量は、一説には現在に残されている化石燃料の約一千倍だとも見積もられたとも言うのだから恐れ入る。


 あの戦争を隠れ蓑に、各国がシャクティの抽出方法を求め、実際に抽出されたエネルギーを奪い合った。それこそが大戦争ザ・ウォーの真相だ。


 だが、死者の国アストラルワールドとの交信方法も、シャクティの抽出方法も大戦争ザ・ウォー後に新興国も大帝国すらも解体されて後は行方知れず。


 それは何故か。これが第二の真実。

 アウトホールシティOUT HOLE CITYのごく近辺に存在しながらも、その存在を口にすることもタブー視されているホール。あれはシャクティによる新兵器の暴発が原因だ。

 その名も星幽兵器シャクティウエポン。何の捻りもない名前ネーミングのその兵器は、その場に存在する生命体の幽体アストラルエネルギーを吸い取り、射出するという身も蓋もないコンセプトだった。


 幽体アストラルエネルギーは、生命体であれば誰しもに存在するエネルギーで、死者の国アストラルワールドに接続することのできる可能性ポテンシャルを秘めている。


 それを強制的に解放し、エネルギーとして利用するのが星幽兵器シャクティウエポンだ。敵国で使用すれば、敵の命を燃料として運用することができる、人道の欠片もない兵器だね。


 大帝国は大戦争ザ・ウォーを通して新興国から手に入れていた死者の国アストラルワールドの研究成果を元に、その星幽兵器シャクティウエポンを展開する予定だった。


 本来の予定では、一種のレーザー砲撃兵器だったそうだ。敵の命を吸い取り、そのエネルギーをレーザーに変換して射出する単純シンプルな兵器。何度も試運転を重ね、最終的に実戦投入される筈だったその兵器は、敵の命のみならず、その場に存在していた生命体の幽体アストラルエネルギー、その全てを吸い取り、死者の国アストラルワールドにて大爆発を起こした。


 その影響が我々の次元にも影響し、あのホールを出現させた。


 当時、星幽兵器シャクティウエポンの研究に関わっていた大帝国幹部や研究員達のほとんどが、あのホールの出現と共にそうだ。

 新興国側の研究者達も大帝国や他国の介入により抹殺されていた。だから、死者の国アストラルワールドの研究成果のほぼ全てが、あの時点で失われたのさ。

 残っていたのは、ボクが今ここに記したような表面的な知識だけだった。

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