真夜中の幻と霊媒の夢(中編)
そんなことを繰り返していた、ある日のことだ。
市長直轄の機関から、私の研究に興味を持ったと言う報せが届いた。近日中に私の研究を見学に伺いたいという申し出で、私としては願ったり叶ったりである。
研究が有意義な物であると公的機関に認められたならば、潤沢な資金や有能な調査員を確保して、更なる研究の発展が望めるかもしれない。
そう思い、最大限の準備を行なって、私は研究機関の職員を我が研究室に招いた。
──結果は散々だった。
いつもならば問題なく動く筈の脳波計が機能しないばかりか、機能してもカインの能力は働かない。私が欲しい実験結果が、再現されない。
私は焦りつつも、いつもはこうじゃない、彼の力は本物なのだと力説したが、職員は首を横に振るばかりで、私に労いの言葉を掛けるだけ掛けて、二度と連絡を寄越さなかった。
正直なところ少しだけ、こうなるのではないかとは恐れていた。
所謂、
オカルト的な実験は、それを信じる者がいる環境では結果を出すが、そうでない、否定派がいることで再現性をなくす、という現象。市長直轄の研究機関はあくまで私の研究の有用性を確かめに来ただけ。私の研究について信じているわけではない。それどころか、予算をおろすかどうかを判断するために、かなり懐疑的であったはずだ。そんな懐疑派がいたことで計機と実験結果に乱れが生じる。
しかしそれは、客観的に見れば単純に、私の今までの研究結果は単に私とカインの妄想であっただけ、という可能性をも意味する。
「そんなことない……」
人は信じたいもの、見たいものを見る。科学研究もまた同じだ。どんなに偉大な科学者であっても、無意識のうちに実験結果を作為的に捻じ曲げてしまう危険性を持っている。
「先生、僕が悪いんです……」
カインは失意の中にいる私に、そんなことを言った。
「僕がちゃんとしていれば、先生も僕を証明できたのに」
私は涙目で訴えるカインの肩を抱いた。
「貴方のせいなんかじゃない。私が、私がいけないの。もっと、もっと実験を重ねなければ」
「僕で良ければ幾らでも力になります」
カインの力強い頷きを見て、私はそれまで以上に研究に没頭し、カインの力を確かめた。 時にはどんな環境下でもカインの力が観測出来る様にと、カインに負荷をかけて実験を行ったり、わざとカインに嘘の結果を伝え、カインを追い込みもした。
「大丈夫です。大丈夫です、きっと。僕達を拾ってくれた先生の為にやれるだけのことは、しなくちゃ」
カインはそう言ってくれた。日に日に私にもカインにも隈が目立つようになり、二人とも体重が以前の半分以下になっていることにも気付かなかった。
実験を続ける私達二人に、弟のアベルがボソリと言った。
「もうやめようよ」
私達を見ていたなら当然出て来る、小さな男の子のそんな当たり前の忠告。
精神的にも参っていたのだろう。それを聞いて、私の中に渦巻いたのは、感謝などではなく。
──怒りだ。
燃えたぎるような怒り。私達のやることを何もわからない癖に。お前には何もできない癖に。
私は右手を空に掲げた。
アベルの頬を叩こうとして、パシーンという大きな音が耳に届いた。
「お前は黙ってるんだ!」
アベルを叩いたのは、カインだった。カインは血走った目でアベルを見下ろし、首根っこを掴んだ。
「僕達を養ってくれてるのは誰だ!? 僕を認めてくれた唯一の人は誰だって言うんだ!」
「先生……だよ」
アベルの目から、涙がポロポロと流れた。泣けば良いと思っているのが、幼い子供の悪いところだ。
それに比べてカインはこんなにも私のことを理解してくれている。そのことに私は心から安堵した。
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