参考文献2

大戦争について。

 大戦争ザ・ウォーについての記憶は新しい。

 何せ多くの人々によって犠牲を孕み、世界の変革を促した戦争だ。

 大戦争ザ・ウォーによって当時の大帝国も共和国も解体され、世界にはただホールだけが残った。


 ホールについて語ることはタブー視されている。私の知る中で今もあのホールの正体を探ろうと調査を繰り返しているのは記者ジャーナリストのタハラ氏だけである。だが、そんな彼もめぼしい成果は得られていないようだ。


 あまりにタブー視されている話題ゆえ、もしかすると、若い世代では大戦争ザ・ウォーホールのこともよく知らないという人も少なくないのかもしれない。


 大戦争ザ・ウォーは文字通り、今世紀最大の世界戦争ワールドウォーだった。

 発端は元連邦国家圏の南東に発足していた新興国の火種だと言われている。その新興国は、もともとは歴史ある大国だったが、連邦国家の解体に合わせ、三つ程の小国に分裂したうちの一つだった。

 その国は全身義体サイバネティクスボディ神経網制御人工知能ニューロアーティフィシャルインテリジェンスの生産地とし名を馳せた。しかしその実、連邦国家の解体により力の膨張を抑える者のいなかった大帝国への抵抗勢力レジスタンスの温床になっているとの疑いがあり、大帝国の糾弾を受けた。


 新興国はそれに徹底抗戦の構えを見せた。

 絶大な資金力と武力をもってして兵を投入し続ける大帝国に対し、自国の全身義体サイバネティクスボディ自動機械アクティヴドローンを駆使した遊撃ゲリラ戦にて抵抗する新興国の戦いは、当初の予定以上に長引く。

 そんな中、元連邦国家圏の国家も新興国への支援を画策。それに報復措置を行う大帝国と、大帝国内で頻発する抗戦運動テロリズムの頻により、戦火は世界中に広まった。


 大帝国側も新興国側も、投入される戦力の多くは、分身アバターであったが、広がり続ける戦火は義体置換者サイボーグ人造人間バイオロイドの絶好の実験場でもあった。


 当時、戦争に身を投じた義体置換者サイボーグの一人に接触できた際のインタビューを以下に起こす。



(以下インタビュー問答一部)


──大戦争ザ・ウォーでは多くの義体置換者サイボーグが投入されましたが、あなたもその一人だと聞きました。具体的にどの戦地でどのような役割を担ったのか、明かせる範囲で構いませんので教えていただけるでしょうか。


IntervieweeX(以下X):戦時下ののことは本来、超小型機械ナノマシンによって記憶制御されているから、おれもつい最近まで多くのことを覚えていたわけじゃない。だが、俺の超小型機械ナノマシンはどうも欠陥エラー品だったようだ。いや、大戦争ザ・ウォーからだいぶ年月も経ってるし、単に経年劣化エイジングかもな。


 だから、おれが大戦争ザ・ウォーについて思い出したのはついこの間だ。記憶の正しさも保証はしないからそのつもりでな。

 おれは大帝国側の傭兵ハイヤードの一人として出兵した。俺以外にも、民間会社の斡旋を受けて戦地に赴く義体置換者サイボーグは少なくなかったな。

 義体置換手術を受ける代わりに、その手術費を戦果で賄うってサービスだよ。


 おれはあのホールが出来た場所の近く、正に激戦区に送り込まれた。

 傭兵ハイヤードではあったが、一個大隊を率いるまでになったよ。何、別にそう珍しいことでもない。あの頃は正規軍なんざあってないようなもんだった。

 代理戦争プロキシーに継ぐ代理戦争プロキシー。誰も本当は誰の指示で動いているのかわかっちゃいない。そんな状態だった。

 だから、普通の奴らよりは多くの情報を持っていたとは思う。それでも、あのホールが何なのか、正直おれもよくは知らないんだ。


 ただ、大帝国の新兵器が投入されるという話は聞いていたな。新型爆弾でも生体兵器でもない。大戦争ザ・ウォーを終わらせる全く新たな兵器なのだと上の連中は息巻いてはいたけどな。詳しいところを、おれは何も知らない。もしくは、その部分についてだけはまだ記憶制御が働いているのかもしれない。どちらにしても、その件についちゃあおれからあんたに言えるような情報は何にもねえな。



──なるほど。とは言え一個大隊を率いるまでになったということは、それだけ貴方が優秀だったということですね。


X:どうかな。そうとも言い切れねえ。おれが受けた義体置換サイボーグ手術は、おれに付与された機能の検証の面があったと聞いてる。


──俯瞰機能とは?


X:義体置換者サイボーグの戦地投入は、企業による人体実験の一環でもある。そんな中でも俺は一個大隊と人工衛星からの写真情報の情報全てを統括する超小型機械ナノマシンと、その為に必要な援助用人工知能サポートAIを体内に埋め込まれた。

 本来ならば膨大な訓練を要するような軍隊の統括を、義体置換サイボーグ手術のみで可能とする為の実地検証。俺はその為の実験台だったんだ。

 事実、おれは体内に埋め込まれた最新技術によって大きく戦果を上げたが、それはあくまで俺の手柄じゃない。

 おれ以外の、他の多くの義体置換者サイボーグも同様だ。



──ホールが出来た場所、と仰っていましたが、ホールができたのは貴方が戦地に投入された後ですか?


X:いや。それについちゃだ。おそらくは、その場にいた他の連中がどうなっても良かったんだろうな。

 ホールがでできたのは本当に一瞬の出来事だったよ。いきなり大きな衝撃音がしたかと思うと、大きな地震が来た。銃で敵の頭に穴を開けている中、急に揺れ始めた大地におれ達兵士は戸惑った。それから混乱する戦場を閃光が包み込んだ。

 目を開けた時には敵も味方も皆倒れていた。俺が比較的無事だったのは、俯瞰機能の実施によって個人の神経伝達を制御されていたから、というのもあるのかもしれねえ。だが、これもただの憶測だ。


 ホールができた場所に存在していた兵からの音信は当然の如く不通。大帝国側も抵抗勢力テロリスト側も、おれみたいに動ける人間がすぐに撤退を促して、突如として現れたホールの出現と共にその戦いは終わった。



──それから貴方が戦場に赴いたことは?


X:あれが最後だ。おれを雇った奴らも、良い情報データが取れたとおれを解雇したからな。それからは行く当てもなく、アウトホールシティに流れ付き、この街のアウトローになった。まあ、生きて普通に生きていけただけマシかもな。あの戦いでPTSDトラウマを患って未だに病室から抜け出せねえ奴もいる。



──本日はお話ありがとうございました。



(以上、インタビュー問答一部)



 全インタビューの記載は控えたが、あの大戦争ザ・ウォーに参加したという義体置換者サイボーグからは、こうした興味深い情報を得ることができた。


 ホールの正体にまでは至れなかったが、彼の言葉が正しければ、あのホールの出現の理由は大帝国の新兵器による余波のようだ。

 次は大帝国側の、もっと真相に近しい人間の手を借りて、ホールというタブーに切り込んでいけたら、と思う。

 引き続き、大戦争ザ・ウォールホールについて調べていきたい。


 次回の更新まで、私の命とこれらの投稿が無事であることを祈る。



(以上『デッドスロープのアングラ報道ブログ』より一部抜粋)

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