憧れの剣闘士(後編)
「どうも、我が
そこにいたのは五指にギラギラと煌めく宝石を身に付けた、にやけ顔の男だった。
「オーナー……」
父の呟きで、その男が誰か思い出す。
絵に描いたような成金趣味のこいつを、あたしは当時からあまり好きでは無い。
「お前は部屋にいろ」
父はあたしを手で別室に追い払った。あたしは自分の部屋に戻ったが、素直に父の言うことを聞く性分でもない。幸い、この家の部屋と部屋を介する壁はそう厚くない。だから、部屋の扉に耳を貼り付けて、二人の会話を盗み聴くことにした。
「何の話ですかオーナー」
「カリカリするな。我が
「
「あの大会ではジャックが優勝した。だが、やはりと言うか、
「不満、ですか」
「君が出場しなかったことについてだ」
「別件が重なっていましたので」
「それを責めようと言うわけじゃないんだ。だが、観客は血を求めている。強者同士が命を削り合う、死闘を観た時に全身を駆け巡る、煮えたぎるような熱い血をね」
あたしもさっき父に言ったことだが、
父のリングネームはワイドバグ。
オーナーが言うように、ネット上の
「どうしろと」
「君とジャックとの
マジか。あたしは思わず興奮して扉を開けそうになったが、グッと我慢する。
憧れの
二人共、
「既に興行の準備は進めている。君がこの仕事を受けない、と言うなら」
「言うなら?」
「ケジメを取って、君との契約は切る他ない」
「……そんな!」
ガタリ、と椅子が倒れる音がした。父がオーナーの言い分に、思わず立ち上がってしまったのだろう。
「君は良い
「しかし」
口黙る父に我慢ならず、あたしは扉を開いて、父とオーナーの前に躍り出た。
「
「お前、聴いて……!」
「
「娘さんの言う通りだ」
オーナーはにやりと口元を歪めた。
「君達の闘いを、皆が待ち望んでいる」
父は首を垂れ、長い長い溜息を吐いた。
それから意を決したようにオーナーを睨みつけると、言った。
「わかった……!」
「やった!」
あたしは思わず小
数ヶ月後、ワイドバグと
あたしも意気揚々として二人の試合をネット配信を通じて観戦した。
──結果は、父の惨敗だった。
途中までは、父もその卓越した戦闘技術を持ってして善戦し、
だが、そこまでだった。
先ずは片脚から。
スパリ、と綺麗な断面図を残して片脚を斬り伏せた
苦痛の悲鳴が
この残逆なスタイルこそ、
最後に
父の
「凄い……」
いつもの癖で、感嘆の声こそあげてしまったが、
家に帰って来た父もまた、沈黙していた。
父はその日から、二度と自分で動くことはない廃人となった。
「御紹介しましょう! 今宵に“二刀流”ジャック・リーに立ち向かうは
──そして今日、あたしは父と同じ、
あれから父の教えを元に、あたしは自身を鍛え続けた。
同時に
以前、
父を廃人にした、憧れの
オーナーに掛け合い、あたしは彼との、この闘いを実現させることに成功した。
緊張で胸がおかしくなりそうになりながらも、深呼吸をして心を落ち着かせる。
──大丈夫。
「
試合開始の鐘が鳴る。
あたしは
きっと、悪くない闘いが出来る。そう確信している。
何故って、あたしこそ、
……To be continued.
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