類を見ない最低最悪の初恋

 今、俺の前にいるのは姉の紗香がいる。

 さすがに騙すことはできないと観念したのか、彼女は吹っ切れた表情を浮かべていた。


「お前の目的がわからない。俺が嫌いなんだろ、なんで看病なんか」


「嫌いじゃないよ。大嫌い」


「だったらどうして」


「世界一嫌いだけど……まだ一ミリくらいは好きだからかな」


「は?」


「はぁ……その何も分かってない感じホント嫌い。死んじゃえばいいのに」


 紗香は頬杖をついてあさってを見ると、疲れたように吐息をこぼした。


「何かあるならちゃんと話してくれ」


「話したくない。自分の胸に聞いてみたら?」


「見当つかないから聞いてるんだ。ヒントくらいくれてもいいだろ」


「やだ。あたしばっかり覚えてるなんて許さない。ナイトくんが自分の力で思い出しなよ。べー、だ」


 下瞼を引っ張り、俺を挑発してくる紗香。


 改めてこの一年を思い返してみるが、やはり心当たりがない。そもそも委員会が同じくらいの繋がりしかないしな。


「ちゃんと言ってくれなきゃわかんねぇよ」


「あ、そ。じゃあいいんじゃない? そのままで」


「……ッ。だったら、どうしてこよりに変装してまで俺に絡んでくるんだ。俺になにか期待してるんじゃないのか?」


「期待? はは、なにもしてないよ。ただの嫌がらせ。ナイトくんは大嫌いだし、こよりも大嫌い。だから同時に嫌がらせしたかっただけ。ナイトくんに拒絶された時点でこよりは気持ち冷ますと思ったけど、そこだけ見込み違いだったかな……」


 嫌がらせ……。

 そうかよ、嫌がらせかよ。わかったよ。


 俺は乱暴に頭を掻きながら、生気を吐き出すように重たく息を吐いた。


「ああ、くそ……お前の嫌がらせはすげー成功してるよ」


「ほんと? ならよかった」


「ああ、だって……訳わかんないくらいお前のこ、、、、とが好きだ、、、、、


「ん? ……は? はああああぁ⁉︎ ちょっと急に何言ってんの⁉︎」


 紗香は椅子を倒しながら立ち上がり、素っ頓狂な声を上げる。

 一瞬にして顔を赤くしながら、身体をわなつかせていた。


「俺が寝てる間もずっと看病してくれてたって聞いて……すげードキドキして、さっきから鼓動がおさまらないんだよ。最悪だ。なんで俺こんなやつに初恋してんだ……」


 よりにもよって、なんで今、恋愛感情を自覚するんだ俺。


 紗香を見るだけで身体が熱を帯びていく。

 これが恋であることは直感的に理解できた。


「ば、ばば、馬鹿じゃないの? あたしが嫌がらせしてたの! こよりに変装して、ナイトくんを騙してた。今朝、ナイトくんを待ち伏せしてたのもあたし! 好きになるなんておかしいでしょ!」


「俺だっておかしいって思ってる。ああもう最悪だ。どうすりゃ良いんだ俺……!」


「し、知らない。あたしは関係ないからね。大体、あたしがナイトくんなんかと付き合う訳ないでしょ。身の程を知りなよ身の程を!」


 動揺を瞳に宿しながら、慌てふためく紗香。


「全部、お前が余計なことしたせいだ。……責任取れよ」


「はあ? あたしとの約束忘れといてなに虫のいいこと……」


「約束?」


「……っ。なんでもない! もうナイトくんには絡まないであげるから、あたしにも関わらないでね! じゃあね!」


 紗香は俺から目を逸らすと駆け足で保健室を後にした。

 一人取り残される俺。ズキリと頭が痛む。でもこれは体調不良によるものじゃない。


 ああ、最低最悪の初恋だ……。

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