第13話 落とし穴大作戦


「落とし穴を作りましょう」


 そう提案したのは氷菓である。


「お、落とし穴?」

「えぇ、林間学校の最中に大樋たちをまとめて落とす巨大な落とし穴をね」

「落とし穴か。ベタだけど悪くないかも。巨大ってどれくらいの落とし穴を作るんだ?」

「そうね。縦横5メートルくらいで深さは三メートルくらいかな」

「一ヶ月も無いのに? そんなものどうやって掘るんだよ」

「峯岸くん。あなたどうやって落とし穴を作るつもり?」

「どうやってって。スコップで地道に……」

「そんなの一ヶ月どころか一生できないわよ。バカね」

「じゃ、どうやるつもりだよ。氷菓さんが手伝ってくれるのか?」

「私は指揮専門よ。現場仕事はしない主義なの」

「現場仕事って。提案したのはお前だろう? じゃ、湾内さんと二人でやるのか」

「私、体力仕事はちょっと……」


 俺が目線を向けると湾内は交わすように否定する。


「おい。一人じゃ結局無理じゃ無いか。どうやって実現するんだよ」

「頭を使いなさい。材料さえ揃えれば一人でも一日で出来る」

「え? 本当に?」


 氷菓が取った方法。それは単純なものである。

 バックホウを使うことだった。建設機械の一種であり、主に掘削をするための機械だ。


「これって現場作業で使うやつだよな? 資格とかいるだろ。俺何も無いけど?」


 するとそこに年配の男性が現れる。


「あ、来たわね」

「掘削する場所はここでいいのかい?」

「えぇ、よろしく頼みます」


 年配の男性はバックホウに乗り込み、掘削作業を始めた。

 そして数時間で巨大な穴を完成させてしまった。


「こんな感じでどうだい?」

「えぇ、上出来よ。どうもありがとう。これ、報酬ね」

「毎度!」


 やることをやった中年男性はバックホウをトラックに乗せて帰っていく。


「ど、どういうこと? 今の人は?」

「建設関係の人よ。自分でやらなくても出来る人に頼めばいい話じゃない」

「それもそうだけど、お金結構したんじゃない?」

「えぇ、地道に返してくれたらいいからよろしく」

「俺持ちか!」

「成り上がるためにかこれくらいの投資が必要よ。さぁ、穴を隠す作業くらいは一人で出来るでしょ。峯岸くん」


 最後の仕上げは俺一人で行うことになった。


「立派な落とし穴じゃない。試しに落ちてみない?」

「嫌だよ」

「冗談よ。落ちたらまず自力では登れないわね」

「だな」

「落とし穴に誘い込む方法は峯岸くんにお任せするわ。落ちた後の処理が肝心だから」

「お、おう。任せとけ」


 こうして落とし穴大作戦の準備が完了した。

 そして現在、大樋たちはまんまと落とし穴に落ちてくれた訳である。




「くそ。ふざけやがって。こんな穴くらい自力で……」


 大樋は登ろうとするが手をかけるところがなくイライラが込み上げていた。


「無駄無駄。どんなに頑張ったところで登れないよ」


 作戦成功で気が大きくなっていた俺だが、ある疑問が過ぎった。


「ん? 1、2、3、4……」


 五人だったはずが、一人足りない。


「つーかーまーえーた!」


 突如、後ろから肩を掴まれた。振り返るとそこには藤江真鈴がいた。

 そう、全員落としていたつもりでいたが、一人免れていたのだ。


「な、何で?」

「私、走るの遅いからさ。途中で諦めて歩いていたんだよね。そしたら伶奈たちが落とし穴に落ちてビックリ」

「ナイス。ふじえもん。そのまま峯岸を穴に落としちゃえ。ボコボコにしてやるから」

「残念だったな。峯岸。藤江が生き残っていたのが運の尽きだ。覚悟しろ。この礼はたっぷりしてやるからよ」


 落とし穴の中で若草と大樋は歯を剥き出しでこちらを睨んでいた。

 ヤバい。せっかくうまく事が運んでいたと思っていたのに飛んだ誤算だ。

 俺の浅い作戦がこのような事態を生み出してしまった。

 こんなことになるんだったらしっかりと氷菓に落とし穴に誘い込む作戦を立ててもらうべきだった。

 かくなる上は力尽くで藤江を穴に落とすしかない。男と女だったら断然こちらの方が有利だ。


「ねぇ、私と組まない?」


 藤江は後ろから囁くように言う。若草たちに聞こえないような内緒話で。


「え?」と俺はただただ疑問で耳を傾けた。


「峯岸くんがこれからどうするか知らないけど、少なからず私を力尽くで穴に落とそうとするよね? 私、力弱いし服汚したく無いし良いことないんだよ。だから伶奈たちを裏切ってあげてもいいよ」


 藤江は距離を詰めて言う。

 俺の味方になるつもりか。それとも俺を欺くための罠か。

 このような場面に出くわした時、正直で真面目な俺はどのような決断を下せば良いだろうか。

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