第12話 あえて罠に掛かりましょう


 地獄のバス移動から解放された俺はいきなり疲労が溜まっていた。


「あら。峯岸くん。お疲れのようね。どうしたの? そんなに疲れて」


 氷華はサバサバした口調で言う。


「災難だよ。これじゃ身体が持たない」

「峯岸くん。気張りなさい。ここからが本番だから」


 そう、この後が肝心である。

 キャンプ場に着けばカレー作り。班での協力が増える場面である。

 班員との共同作業で仲間意識を高めるのが目的とされているが、大樋や若草はそんな気がない様子だ。


「ちっ。カレー作りなんて面倒だ。適当に作っておいてくれや。俺と伶奈はその辺で遊んでくるからよ」


 と、そもそも参加する気がない様子の二人。

 俺は作業に入ろうとしたその時だ。


「おい。峯岸。お前も付き合えよ」

「え? でも人手不足になるし」

「二人いれば問題ないだろう。なぁ?」

「私は問題ないわよ」

「氷華さんと二人で作っておくから安心して」

 と、氷華と湾内は否定することなく承諾した。

「だとよ。遊びに行こうぜ。峯岸」


 俺は大樋に無理やり連れて行かれる。

 その際、氷華は頷いて合図をした。

 俺が二人を引きつけている間に準備を頼むよ、氷華。

 森林の中に歩いていき、大樋と若草は足を止める。


「よう、お前ら。うまいこと言って抜け出してきたか」


 そこにいたのは猿飛と梶の二人。そしてもう一人待ち構えていた。


「おっそーい。私、トイレって言ってきたのにこれじゃ大きい方だと思われるじゃない」


 藤江真鈴ふじえますず。別のクラスの女子生徒。

 若草と親しい仲で桃色髪の癖毛が特徴。ネイルが派手なギャルである。


「別にそれはそれでありじゃない? ふじえもん」

「よくない! 私にもイメージがあるんだから!」


 若草の冗談を本気でムキになる藤江。見た目といい行動といい派手だ。


「それより新顔がいるね。あ、下着泥棒の峯岸くんだ。お初だね。名前に同じ『真』がつくもの同士仲良くしようよ」


 妙に馴れ馴れしく近付く藤江。俺だからというわけではなく誰にでも馴れ馴れしい。


「あんまり馴れ馴れしくするとヤられるぞ。ふじえもん」

「え? そうかな。それならそれでもいいけど」


 試されている? そもそもこいつらは一体、今から何をしようとしているのだろうか。

 ただのサボりの集まりという訳でもなさそうだが。


「この林間学校中、峯岸は俺のパシリだ。何を命令するのも自由だ。お前ら、何でも命令していいぞ。俺が許す」

「大樋。何を勝手なことを言っているんだ。そもそも俺はパシリになるなんて一言も……」

「あれれー? いいのかな? そんなことを言って。例の写真が一人歩きしても知らないぞ?」

「ちっ。卑怯者」

「はいはーい。じゃ、トップバッターは私が命令していいかな?」


 名乗り出たのは若草である。


「おう。伶奈。何でも言ってもいいぞ」

「じゃあ、峯岸、膝を付きなさい」

「は? 何で……」

「峯岸。命令だ。早くしろ」

 大樋の圧が凄まじい。ここは素直に言うことを聞いて膝を付いた。

 すると、若草は俺を椅子にして腰を下ろした。

「こんなところに調度いい椅子が!」

「ぐっ! 重っ!」

「はぁ? 女子に重いってマジ失礼ね。あんた。てか椅子が喋るなし」


 手を足で踏まれて凄まじい激痛がした。痛みをグッと堪えて声に出さなかった。

 そのまま若草は雑談を始める。完全に俺は椅子となっていた。


「だああああああああああああ!」


 俺は若草を押しのけて椅子を辞めた。


「痛い! こら、勝手に椅子を辞めるな」

「もう我慢の限界だ。お前らがサボっていること言いふらしてやる」


 そう叫んだ俺はそのまま皆のいる方向へ走り出した。


「逃げるな。捕まえろ」


 俺を捕まえるため、その場にいた全員が走り出す。

 そして俺はある場所に誘導するため走り出す。


「峯岸、調子乗るんじゃねぇぞ!」

「バーカ」


 次の瞬間である。大樋たちは地面が抜けて落ちた。

 そう、そこは深さ三メートルある落とし穴だった。


「うわあああああ。何じゃ、これ! 落とし穴?」


 突然のことに大樋たちは混乱する。


「ざまーねぇな」

「峯岸。まさかお前の仕業か?」

「ご名答。シンプルイズベスト。単純だけどまんまと引っかかったな。お前ら」


 そう、これは夜な夜な掘り続けた作った落とし穴だ。大樋たちを引き込むために用意したものである。


「さて。何をして遊ぼうかな」と、立場が逆転したことで興奮が抑えられなかった。

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