第10話 もう一人の協力者
「こんにちは。氷華さん。それと……峯岸くん」
俺の前に現れたのは湾内可憐。同じクラスメイトである。
茶髪のパーマで身長が百四十九センチしかなく小柄。マスコット的な立ち位置で誰とでも仲良くなれるタイプの女の子である。
癒し系と言える彼女だが、どうしてこの場にいるのか不思議だった。
「どうして湾内さんがここに?」
「私が呼んだのよ」
「あれ? 氷華さんと湾内さんって仲良かったっけ?」
「いえ。全然。会話をしたのも最近のことだし」と氷華は平然と言い放つ。
「氷華さんとは図書室で仲良くなったの。私の好きな作家の本を読んでいたから『好きなの?』って声を掛けたら話が合うんだよね。氷華さん」
にこやかに湾内は解説を入れた。
「そんな訳で彼女にも駒として協力してもらおうと思ったの」
「湾内さん。俺たちの関係って知っているの?」
「大方聞いたよ。私にも手伝わせてよ」
「聞いたってどういう経緯で? 俺、女子から嫌われている存在なのに大丈夫?」
「勿論、最初に発覚した時は驚きました。でも今までの行動を見ていると峯岸くんはそんな卑猥なことをするとは考えにくいって思いました。裏で誰かに仕向けられたとは思ったんですけど、氷華さんに話を聞いて手助けしたいって思ったんです」
「俺はてっきり全員から引かれていると思ったけど、そうじゃなかったんだね」
「私、どこかのグループに所属するっていうよりまんべんなく入っている感じだから実は孤立しているんだよね。でもクラスメイトの様子は常に把握しているから峯岸くんも例外なくよく見ていたよ。真面目で嘘が言えない峯岸くんが嫌われる理由がないんだもの」と、見透かしたように湾内はいう。
この子は信用できると俺の胸の中が叫んでいた。
だが、俺のせいで標的になってしまえば危険な目に遭わせてしまう。
「気持ちは嬉しいけど、俺は賛成できない。湾内さんをこんなことに巻き込ませるわけにはいかないよ」
「峯岸くん。湾内さんに手伝ってもらうことは裏方の仕事。心配ものじゃないわ」
「いや、でももし万が一の場合があったらどうするのさ」
「大丈夫。湾内さんもそれは承知の上よ」
「え?」
湾内さんに目を向けると決意を固めたように頷いた。
「私ね、実は若草さんと同じ中学だったの」
「え? じゃ……」
「氷華さんに若草さんの情報を流したのは私だよ。だから若草さんの事情は知っている。と、言ってもクラスが同じになったことはなくて元カレさんも関わりがない。でも学校ではちょっとした有名カップルだったから嫌でも噂は耳に入ってきたの」
「湾内さんが知っていることを教えてくれないか?」
「えぇ、勿論。峯岸くんと顔がそっくりの元カレは峯岸くんと性格は真逆で嘘つきなの。嘘って言っても冗談の類で学年ではお調子者で盛り上げる役割があったの。若草さんと付き合っていても結構女の子と喋っている印象だよ。女慣れしているってイメージ? 浮気しているんじゃないかって噂があったくらいだから実際していたのかもしれない。真相は知らないけどね。でも、実際別れた経緯が浮気だったらしいから当時からやっていたんじゃないかな」
同じ学校だったと言うだけで若草の事情はあくまで外面しか知らないらしい。
一つだけ分かったことは若草の元カレはクズということだ。
「私、真面目なのに不幸になるって構図がどうも許せないんだよね。だから峯岸くんには今の状況を変えてほしいと思っている。だから手を貸すんだよ。迷惑……かな?」
小動物のように湾内は甘い口調で言う。
「分かった。それで湾内さんに何をさせるつもりだ? 氷華さん」
「それより、甘いものを食べたい気分」
氷華は席を立ち、食べ終わった袋をトレイに乗せてゴミ箱へ向かう。
真面目な空気に氷華は自分の欲望を優先させた。
「下の階にドーナツの店があったわね。そこに行きましょう」
「まだ食べるのかよ」
「今のは軽食。これから向かうのはデザート」
「食べることには変わりないだろう。まぁ、付き合うけどさ」
俺はドーナツを二つ、湾内は一つ、氷華は五つをトレイに乗せた。
そんなに食べるのかと思ったが口には出さない。
ただ、この細身で太らないことが不思議だった。
あっという間に氷華のドーナツは胃袋へ消えた。
「フゥ。さて、話の途中だったわね」
と、満足した氷華は話を切り出した。
「ハイリスクハイリターン。これは一人が犠牲になる代わりに確実に若草と大樋を地獄へ落とす作戦よ。その役目を誰が引き受けるかって話になるんだけど」
「一人が犠牲? どう言う意味だよ」
「言葉通り、要は道連れね。ジョーカーを確実に陥す代わりに自分も陥ちる。ハイリスクハイリターン作戦」
「他に方法はないのかよ。そんな危ない橋」
「無いこともないけど、これには時間が掛かりすぎる。そしたら峯岸くんにも負担が掛かることになる」
「その内容っていうのは?」
そういうと氷華は語り出した。
女神様が悪魔的な作戦とも言える内容だ。
「確かにそれなら手っ取り早いかもしれないな」
「で、誰がやる? 当然、私はそんなリスクを背負いたくないわ」
「俺がやる。てか、最初から俺にやらせるつもりだったんだろ」
「ご名答」と氷華は見透かしたように言った。
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