第9話 標的になった理由
とある休日の昼頃、俺と氷華は商業施設のフードコートで軽い食事をしていた。
「氷華さんの私服、初めて見たけどそんな感じなのか?」
氷華の服装は白のシャツに黒いズボンと地味なものだった。
おまけに色付きのメガネと帽子を被って少し怪しさを感じた。
「そんな訳ないでしょう。これは私の存在を消す変装。普段は超オシャレなんだから」
と、必死に氷華は否定する。
「変装?」
「休日とはいえ、どこで誰が見ているか分からない。そういう意味では学校の外だろうと油断はできないのよ」
ポテトを摘みながら言い切った。
氷華の意見は一理ある。誰が見ているか分からない中、密会していることは知られたくない。
「それで今日はどんな作戦を?」
「峯岸くん。最近の学校生活はどうかしら?」
「どうって言われても何も変わらないよ。相変わらず女子から避けられるし、存在を否定される。大樋からの嫌がらせは減ったけど、ゼロではない。マイナスのままさ」
「まぁ、見た通りね」
「知っているなら何でそんなこと聞くんだよ」
「女子からは変態扱いされるのは変わらない。それでも峯岸くんは学校に通い続けている。それだけでも立派よ」
「立派って学生が学校に行くのは当たり前のことだろう」
「真面目なあなたなら普通のことかもしれないけど、不登校になったりそのまま学校を辞める人は中にはいる。そういう意味では立派よ」
「そういうものか」
「だが、今より状況が悪くなったらどうかしら?」
「今より?」
「さらなる追い討ちを掛けようと向こうさんは動いている」
「本当か?」
「大樋グループの制圧は目前。でも若草グループは手付かず」
「若草伶奈がまた何か企んでいるのか」
「えぇ、残念なことに。彼女は峯岸くんを完全に潰すつもりよ」
「何で俺、そこまで恨まれているんだろう」
最初から理由がよく分からなかった。真面目なところが気に喰わないと曖昧なもので彼女に直接何かしたわけではない。それなのに恨まれるようなことをされる義理がないのだ。
「若草伶奈のことを少し探ってみた。その結果、あることが分かったの」
「あること?」
「彼女、大樋と付き合う前に付き合っていた人がいたのよ。結構長めで中学二年から三年間」
「去年まで付き合っていたんだ」
「えぇ、結構な一途だった若草はその男と結婚する覚悟だったらしい。お金も結構貢いでいたらしく時に親のお金を持ち去って男に渡していた。好きっていう気持ちが止まらなかったのね」
「そこまで好きだったのにどうして別れたんだ?」
「男の裏切りよ。最初から好きじゃなかったらしく都合のいい相手としか思っていなかったらしい。その結果、酷い捨てられ方をされたらしい。詳しい詳細までは分からないけど」
「どうやって調べたんだよ」
「それは内緒。野暮なことは聞かない方がいいよ」
「野暮って。ん? それと俺とはどう関係があるっていうんだよ」
「これ、元カレの写真よ」
氷華は隠し撮りと思われる若草の元カレの写真をスマートフォンから見せた。
その顔を見た瞬間、胸がざわ付いた。
その男は俺と同じ顔をしていた。まるでドッペルゲンガーを見ているようにそっくりな顔をしていた。
「若草が異様にあなたに執着しているのはその顔のせいね」
「何だよ。そんなの逆恨みじゃないか」
「まぁ、そういうことね。よほどの裏切りが効いて同じ顔をした峯岸くんが許せなかったのでしょう。存在そのものが」
まさかの理由に納得できるものではないが、追い討ちを掛けようとしているのなら無視できる話ではない。早めの対策が必要となってくる。
「なら今日はその対策について話し合いって訳だな」
「まぁ、そんなところね。でも若草グループは大樋グループと違って勢力が違う。十人くらいのグループがあるから簡単には手出しできない」
「そんなにいるのか」
「若草は地方のパラパラに所属している影響でギャルの人脈が広いのが影響しているかな」
「パラパラ?」
「あら? 知らない? SNSで発信しているダンスのことよ。こんなやつ」
氷華は動画サイトでパラパラの動画を見せた。
「あー見たことある。へー若草ってこんなことをしているんだ」
「その影響もあって女子からは崇められる存在ってわけ。対抗するのは簡単じゃない」
「やばいやつを敵に回したな」
「数で負けているこちらとしては不利。そこでこちらにも駒を用意する必要が出てきた訳」
「駒?」
「遅いわね。そろそろ来る頃だと思うんだけど。お、噂をすれば……」
俺の背後に誰かが立つ。振り返って確認する。
「君は……」
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