第5話 傷口が癒えた後の登校日
「作戦を決行するためにはその傷を治すこと。完全に治るまで一週間は自宅で安静した方がいいよ」
氷華にそう提案された俺は約一週間、自宅待機となった。
そして一週間後、俺は登校日迎えた。
「一週間時間を空けたとはいえ、俺の評価は変わっていないだろうな」
勇気を振り絞って学校の敷地を跨ぐ。急にビビッと電気が走った気がした。
俺を気にかける者は誰もいない。ただ、いつもと変わらないような俺が元々いなかったような感じだった。
「あれ?」
俺は自分の下駄箱に手を伸ばすが、上履きがないことに気付く。
下や上、反対側を探しても俺の上履きは見つからない。
仕方がなく俺は外来者用のスリッパを履いて自分の教室へ向かった。
ここだ。この先に一週間前の俺とどう変わったか。
いざ出陣。と、教室の扉を開いた。
俺の姿を見た瞬間、ざわついていたクラスメイトは静まり返った。
俺は無視して自分のせきに向かう。
すると、俺の机には油性のマジックで『下着泥棒』や『変態野郎』などの落書きが書かれていた。机の中にはゴミが溢れそうなくらいパンパンに詰められていた。
「あれ? 峯岸。お前、学校に来られたんだ。どうしたんだ? 早く座れよ」
クラスメイトで唯一俺に喋りかけて来たのは大樋だった。
相変わらず煽るような口調で俺に喋りかけてくる。
「どうした? そんなところで突っ立っていないで座ったらどうだ?」
ニヤニヤと座ることを強要する大樋。
だが、俺の椅子には画鋲の針が剥き出しに接着剤でびっしりと固められていた。
こんなものに座ったら俺のケツは蜂の巣にされてしまう。
チャイムが鳴ったと同時に担任の教師が教室へ入ってくる。
「はい。席に座れ! ん? 峯岸、早く座らんか」
クラスメイト全員が俺に注目する。早く座らないとこの後の進行が進まない。
だが、座るわけにもいかない。
「峯岸。お前、もしかして勃起しているのか?」
大樋は茶々を入れる。その問いにクラスメイトは爆笑した。
「こらこら、ふざけてないで峯岸、早く座りなさい」
事情を知らない教師は進行を急ぐように言う。
「はい……」
俺は自分の席に腰を下ろす。
だが、素直に座るわけにはいかない。考えた挙句、俺は空気椅子でやり過ごした。
その行動に大樋はやられたと言う顔をした。
まぁ、空気椅子程度なら一時間は持つ。十分休憩を挟んでいけばやれないこともない。
そこから普通に授業が行われて昼休みに入る。
昼休みの間、画鋲を外す作業に追われている時、後ろから声を掛けられる。
「峯岸くん。体調はもう大丈夫なの?」
心配したように氷華は言う。
「まぁね。中腰のキープで余計に筋肉痛によって体調が悪くなりそうだけど」
「そう、それならいいけど」
よくねーよと言いたくなったが、グッと堪えていた。
「あなたの上履き、見つけたわよ。ゴミ捨て場にあったけど、履く?」
「ありがとう。氷華さん。わざわざ探してくれたの?」
「大したことじゃないよ」
渡された上履きは元より綺麗に見えた。ゴミ捨て場にあったのにこんなに綺麗な状態になるだろうか。
「もしかして氷華さん……」
「時に峯岸くん。一つ、話しておかなければならないことがあったの」
「話しておくこと?」
「基本、学校では私と会話を控えてほしいの」
「氷華さんも俺のこと避けているってこと?」
「そう言う意味じゃなくて学校の人には私たちの関係を内緒にしておきたいの。峯岸くんが輝いた時に私が何かしたって言う事実は知られたくない。だから会話を控えた方がいいって思ったの。その代わり、その場で伝えたいことがある場面もあると思うからメールや電話または合図なんかを送るからそれで連絡を取れないかしら?」
「そうだよな。同盟関係を知られるとネタバラシみたいなものだもんな。分かった。それでいいよ」
「ありがとう。連絡先、交換しておこう」
その場で氷華の連絡先を交換した。
登録した名前は『氷の女神様』にしておいた。
「これでいつでも連絡が取れるから安心ね。それより何をしているの?」
「画鋲を取っているんだよ。接着剤が強いから針の部分だけ折っているんだけど、面倒でさ」
「そんなまどろっこしいことしないで新しいものと交換したらいいじゃない」
「新しいもの?」
「体育館倉庫に予備の椅子がいくつかあったからそれと交換すればいいと思う」
「な、なるほど。そうするよ」
「上履きを捨てたり椅子を画鋲詰めなんて幼稚なことをする人の目星は分かっているよね?」
「それは見当がついているよ」
大樋だ。あいつだけは天罰を与えてやりたい。しかし、今の俺にはどうすればいいか分からない。そこで氷の女神様の出番だ。
「いきなり親玉を取るのはリスキー。だからまずは外野から攻めましょう」
「で? 俺は何をすればいいんだ?」
「峯岸くん。まずはバイトしてくれない?」
バイトってアルバイトのこと?
何故、そんなことをしなくてはならないのかただただ疑問だった。
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