第4話 同盟を組みましょう
「これでよし。もうズボン履いていいよ」
氷華に下半身まで晒して手当てをさせてしまった。
これではいよいよ下着泥棒以前に露出する変態ではないか。
いや、そもそも俺は下着泥棒ではない。それだけは断言して言える。
「あ、ありがとう。何から何まで」
「いえいえ。それにしても峯岸くん」
「な、なに?」
「随分、小さいわね」
そう言われて俺は両手で股間を隠した。
「いや、そう言う意味じゃなくて器が小さいってこと」
「器が小さい?」
「他人に対して臆病というか、自分が傷つけばそれでいいって考えが強く現れている。それじゃこの先、損するばかりだよ。大らかに堂々としないと」
「とは言っても他人を傷つける訳にもいかないし、それだったら……」
「自分が傷ついた方がマシだって?」
俺は思わず「うっ」と口籠もった。見透かされているのか?
「あんな仕打ちを受けても自分が犠牲になればそれでいいってこと?」
「そういう訳じゃないけど」
俺は押し黙った。この先、騙され続けて損する人生が待っているって考えると生き辛かった。というよりも耐えられない。
「それで峯岸くんはどうしたいのかな?」
「俺は普通の学校生活を送りたい」
「普通……ね。今の峯岸くんは普通ではなくむしろマイナス。ゼロに戻すことをしないといけない。実はこれ結構大変なんだよ。マイナスに落ちることは簡単。でも落ちたものを元通りにすることは茨の道。この意味、分かる?」
「それは勿論、簡単なことじゃないってことは分かるよ」
「じゃ、具体的にどうすればいいか明確に言える?」
「それは……」
俺は言葉が出なかった。
何も浮かばなかったというのが正直なところだ。
「まぁ、そう言うことよ。具体性がないと峯岸くんは一生マイナス評価のまま」
「俺はもうこのままなのか……」
「大丈夫。私が峯岸くんの評価を元に戻してあげる。いや、元よりも数段良くしてあげようか?」
「そんな方法があるの?」
「私が直接やるわけじゃないけど、サポートにはまわれる。変えられるかどうかは峯岸くんの努力次第だよ。その代わり相手を騙す覚悟が必要になる。それでもやる?」
「や、やります」
いつも騙される側の俺が騙す側に回る。それはかなりハードルの高いものだが、こうでもしないと俺に未来はない。
「なら
氷華はニヤリと悪女のような笑みを浮かべる。氷の女神様らしからぬ顔だ。
てか、そんな顔も出来るんだね。あなた。
「退学? それはやりすぎじゃないのか?」
「やりすぎ? 君はそれくらいの仕打ちを受けたんだよ。当然の報いだよ」
「でも退学はさすがにちょっと」
「じゃ、峯岸くんは一生このままだよ?」
「それは……困る」
「じゃ、やれる?」
少し心苦しい思いもあったが、あいつらには何か罰を受けてほしいと心から願っていた。やらなければやられるだけ。それはあまりにも損ではないか。
「分かった。でも、退学にさせる方法なんてあるの?」
「まぁ、少し手荒になるけど方法はあるよ。簡単な話、同じことをやり返せばいい。それに加えてプラスαをして完全に追い込む」
「その方法とは?」
俺の決意が固まったこと氷華はジッと見つめる。
だが、そんなシリアスな空気の中「グゥー」と氷華の腹が鳴る。
「その前にお腹空かない?」
不意に氷華の誘いにより一緒に食事をすることになった。
保健室から場所を変えて学校の外から近いお好み焼き屋へ向かい合わせに座る。
怪我人の俺は見守る形で氷華が全て焼きから取り分けまでしてくれた。
「い、いただきます」
「一人で食べられる?」
「なんとか……あっ!」
手が震えて箸から床に落としてしまう。
「箸、貸して。食べさせてあげる」
「それはちょっと……」
「遠慮しないで」
氷華は俺にお好み焼きを食べさせてくれた。
「あつっ!」
「ごめん。フーフーしないとね」
なんだか恋人みたいだと思ってしまう自分がいた。
だが、それは怪我人の俺を気遣ってのものだと言い聞かせる。
「あのさ、氷華さんはどうして俺に構ってくれるの?」
「別に。私はただ間違ったものを正したいって思っただけよ」
「そっか。それよりさっきの話だけどさ、マイナスをプラスにするとか言う方法ってなんだよ」
「その件を話す前に峯岸くん。私と同盟を組まない?」
「同盟?」
「私、自分が行動するのは好きじゃないの。わかりやすく言えばスポーツ選手じゃなくて監督の立場で居たいのよ。駒として動くのではなくゲームマスターのような立ち位置。わかってもらえるかな?」
「言いたいことはなんとなくわかるけど、それがどういう意味な訳?」
「つまり同盟っていうのは私がゲームマスター。そして峯岸くんが私の駒になるっていう同盟よ」
「それって氷華さんの指示通りに俺が動けってことか?」
「まぁ、そういうことになるね。私の指示は絶対。それが守れるのであれば峯岸くんをプラスにしてあげる。どう?」
「どうって言われてもなんでそんなことを?」
「面白いから。評価を上げる裏で私が操作していたってなんかワクワクしない?」
キラキラした眼で氷華は俺に迫った。
今まで会話したことがなかったから何も知らなかったが、氷華はこういう人間らしいことを俺は思い知った。
だが、今の俺の立場から考えてマイナスの今、これ以上評価の下がりようがない。
だったら氷の女神様と同盟を組んで賭けに出てもいいのではないか。
「分かった。君を信じてみるよ。氷の女神様」
「その異名、悪くないけど、二人の前では名前で呼んでくれないかな?」
「えっと、じゃよろしくお願いします。氷華さん」
「うん。よろしく。峯岸くん」
こうして俺はマイナス評価からプラス評価にあげるため、氷の女神様と同盟を組んだ。
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