第2話 濡れ衣の真相

 俺が下着泥棒を働いたとしてその噂は一気に広まった。

 勿論、俺はそんなことをしていないが、あの場の流れで自分の罪を認めた方が楽だと思ってしまったのが間違いだったかもしれない。

 歩いているだけで女子はゴキブリを見るような目で俺を避けるようになった。

 正直、生きた心地がしなかった。誰も俺に関わろうとしない。

 しかし、そんな俺に関わってきた人が現れた。


「よう。峯岸。いや、下着泥棒さん。聞いたぜ。女子更衣室に忍び込んだんだってな。お前、なかなか度胸あるじゃないか。ん?」


 俺は急に肩を組まれて不良グループの男子三人組に絡まれた。

 襟足が長い髪型が特徴の大樋司おおといつかさを筆頭にヤンチャな集団だ。

 今まで関わりがなかった分、こういう時に限って変に俺に関わってきたのだ。

 下手に関わりたくないと足早に去ろうとしたが、大樋はそれを許さなかった。


「おい。何を無視してんだよ。変態野郎」

「俺は無実だ。勝手なこと言うな」


 イライラしていた俺はつい、強めの口調でそう言っていた。


「なんだ? 逆ギレか? 女子たちは皆言っていたぞ。峯岸が下着泥棒って認めた上で土下座をしたってな。お前は変態野郎なんだ。分かっているのか? この野郎」


 いくら否定したところで俺が認めたと言う事実は変わらない。

 痛いところを突かれた俺は何も言い返せなかった。

 その場しのぎの謝罪がこうも俺を苦しめていた。


「例えお前が謝罪したところで女子たちの心は癒えない。せめてもの償いとして俺たちがお前に制裁を加えてやるよ。来い」

「は、放せ。何をするつもりだ」

「いいから黙って付いてこいよ。コラ」


 俺の抵抗も虚しく無理やり連れていかれる。

 体育倉庫に運び込まれて俺は三人から集団リンチを受ける。

 【正直者がバカを見る】を体現した瞬間である。


「オラ。変態野郎に制裁だ」

「おい。顔はやめておけよ。後々、問題になるからな」

「あいよ。じゃ、身体を中心に痛めつけてやる。おらあああぁぁぁ!」


 ボカッ、ズカッ、ガッ、ドッ、ズンッと制裁と言い、俺は亀みたいに身を丸めながら足蹴りをされていた。いいようにフルボッコにされていた。

 痛い。苦しい。逃げたい。そう思っても声に出せなかった。ただ、俺は痛みに耐えるしかない。嵐が過ぎ去るのを静かに待つ。

 ただ、納得ができない。何故、俺がこんな目に遭わなくちゃならないのか。

 俺の生き方が間違っていたのだろうか。目の前の不良どもではなく神を呪うようになっていた。

 一通り、ボコられた俺は痛みで気が遠くなっていた。嵐は収まったらしい。


「さて。制裁を加えた証拠を撮らないとな」


 服を無理やり脱がされて油性のマジックで『変態降臨』『すみませんでした』など身体に落書きをされる。

 肉体的な制裁を加えられて精神的な制裁までも受ける羽目となった。

 パシャパシャと俺の無残な姿を写真に収められる。

 情けない。どうしてこんなことになったのだろうか。

 全ては若草にハメられたことが原因だった。ここは若草に全てを話してもらうしかない。若草が真実を話してくれない限り、俺の未来はない。


「司。終わった?」

「おう。伶奈。今終わったところだが、お前が出たらネタバラシになるじゃん。引っ込んでなくてよかったのかよ」

「別にいいよ。ネタバラシしてやろうじゃない。この際だし」


 動けずにいる俺の前に若草伶奈が姿を見せた。


「若草……」


 俺は掠れる意識の中、声を出した。


「ダッサ。でもイイ気味。今、どんな気分? 教えてよ。峯岸」

「どう言うつもりだ」

「どう言うつもりって何もかも嘘。あなたと付き合ったのは罰ゲームよ。演技するのも大変だったんだから。でも思いのほか、すっかり騙せたよ。私、女優の才能があるかも。名演技でしょ。あははははは!」


 演技? つまり最初から俺のことを騙すつもりで告白してきたってことなのか。


「な、なんだよ。それ。冗談でも笑えないぞ」

「冗談? ばっかじゃない? 私、本当は司と付き合っているの」


 若草は大樋とイチャつく。最初から全部嘘だったのだ。付き合う時点から全て。

 ようやく俺が騙されたことを実感する。


「司。ごめんね。一時的とは言え、寂しい思いをさせて」

「はは。気にするな。面白いものが見られただけで充分さ。それにしてもどうして峯岸なんかをハメたんだよ」


 俺が聞きたかったことを大樋は聞いた。


「私が峯岸をターゲットに選んだのは騙しがいがありそうだと思ったから。信じやすいって噂があったし、最大の裏切りを受けたらどうなるか実物じゃない? 結果、とても面白いものが見られたよ。そういう意味では峯岸には感謝だね」

「ガハハハ。伶奈は随分な悪女だな。峯岸はもう人を信じられなくなったんじゃないか?」

「別にいいんじゃない? 簡単に人を信じる人ってただのバカだし、身をもって知れたんだもの。感謝してほしいくらいだわ」


 その場にいた不良男子全員は笑った。どこまでも人を馬鹿にした態度だ。

 全てはこいつらが仕組んで俺を下着泥棒に仕立てたという訳だ。


「もう二度と学校に来られなくなっちゃったね。そのまま学校辞めれば? 下着泥棒の肩書きは一生消えないよ。行こう。皆」


 そう、吐き捨てた若草は大樋たちと共に体育倉庫から出ていく。

 惨めだ。こんなことになるなんて俺はどこまでもお人好しだ。

 一人取り残された瞬間、涙が溢れた。


「くっそー! ふざけんじゃねぇぞ。ちきしょうがあああぁぁぁ! 俺が何をしたって言うんだあああぁぁぁ!」


 悔しい。悔しい。悔しい。ただそれだけが脳内を支配した。

 拳を強く握り、コンクリートの床を叩くことが精一杯だった。

痛いけど、どんなに叩いても痛いのは身体ではなく心だった。

その時である。俺の前に一枚のハンカチが差し出された。


「どうぞ」


 俺を心配するように優しく声を掛けるその人物の顔を見上げる。

 それは美少女の姿がそこにあったのだ。


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