第17話 成功例
八月最後の日、俺の家にやってきたのは敬葉高校の二年生、安田寧々と藤原優太だった。
夏祭りを終えて、二人が共に俺の家まできたということは上手くいったのだろう。
俺は麦茶をグラスに注いでお盆で部屋まで持っていく。ガチャリとドアを開けて、ローテーブルに置く。
「ありがとうございます」
そうお礼を言って安田さんは麦茶を受け取る。
「兄貴、あざっす」
そう軽い調子でお礼を言って藤原くんは麦茶を受け取る。
正反対な二人を見て俺はクスッと笑う。
「ちょっと、なんで笑うんすか」
「そうですよ」
二人して似たようなことを言ってくる。それに俺はまた笑う。
彼と彼女のとりあえずのハッピーエンドがここにはあった。
別れる確率は当然あるし、上手くいって結婚するかもしれない。
この先どうなるかなんてわからない。
だけど、これは幼馴染との恋愛の成功例と言えるはずだ。
「良かったな」
何がとは言わずに俺は呟く。
それでも二人とも俺の意図がわかったようで嬉しそうに頷く。
「……兄貴のおかげっす。兄貴がいなかったら俺たちどうなっていたかわからないっす」
藤原くんがそう言って隣で安田さんがコクコクと頷く。そんな二人に俺は首を横にふる。
「別に俺は大したことをしていない。二人の力だ」
放っておいても彼女たちの場合は既に両想いだったのだから俺がわざわざ介入しなくても良かった。だから俺は、ただの余計なお世話をしたまでだ。
「まあ、末長くお幸せに」
「なんか棒読みじゃないすか?」
「そんなことないぞ。ちゃんと心を込めている」
「そうすか?」
納得しない顔で藤原くんが言うので俺は頷く。
「ああ。藤原くん、可愛い彼女ができたのだから不倫はするなよ」
「しないっすよ!」
慌てて言う藤原くんを安田さんはニコニコ笑っていた。
俺の憧れた光景がそこには広がっていた。
その笑顔を壊さないようにして欲しいなと俺は心から願った。
そして、幼馴染の二人が結ばれたことに大人気ない俺は嫉妬した。
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