第7話 スロット

 人生はスロットに似ている。三つのうち、一つでも違っていたら当たりにはならないところが本当に似ている。よく、完璧主義者は良くないと自己啓発本に書いているが完璧でないと他人や社会は許してくれない。本当に人生は矛盾だらけだ。

 そんな矛盾している社会を楽しくするのもまた、スロットだ。

 平日の昼間、曇りの天気の中、俺はパチンコ屋に足を運ぶ。友達のいない俺が一人外で楽しめるのは一人カラオケかパチンコやスロットくらいしかない。

 坂を下り、パチンコ屋が見えてくる。平日の昼間ということもありパチンコ屋に吸い込まれていくのは老人が多い。その流れに俺も紛れ込む。このまま年金受給までできれば最高だなと思いつつ、台を選ぶ。回転数や当たりの回数を確認して台を吟味するのだ。

 俺がスロットを始めたのは仕事を辞めた二十三歳の時だ。大学生の時はパチンコやスロットなんて金の無駄になるものなんて誰がやるかと思っていたのに会社を辞めた俺を快く迎え入れてくれたのはパチンコ屋くらいだった。

 一人で楽しめて、上手くいけば金が増える。刺激のない人生を送っていた俺はその刺激がたまらなかった。

 俺はピエロの描かれたジャグラーを選ぶ。ジャグラーで始まり、ジャグラーで終わる。そんな有名な言葉を君たちは知っているだろうか?

 サンドに千円札を入れる。スルスルとサンドは俺の千円札を吸い込んだ。サラリーマンとして働いて安定した給料があれば俺は迷わず一万円札を突っ込んでいただろう。しかし、現在の俺はニートだ。だから金がない。そのなけなしの金を楽して増やすためにここに来ているのだ。

 ジャラジャラとメダルがコイン払い出し口に流れ落ちてくる。最近ではメダルレスというメダルが出てこないタイプの台があるが俺はメダルを入れるところからスロットは始まると思っているのでメダルがあった方が嬉しい。メダルを何枚か重ねてとってコイン投入口に入れる。チャリンチャリンと他の台の音に負けない小気味良い音が聞こえてくる。

 三枚掛け、マックスベットしてからレバーを下げてリールが回る。左から押していく。これを順押しと言う。

 あっという間にコインが減っていく。

「ぺからねえ」

 ペかるとは台の左側のランプが光ることを言う。ペかるとチャンスなのだが全くこない。

 結局、千円では当たらず俺は追加で一千円を入れたが当たらなかった。

 一旦、スロットは諦めることにする。焦ることはない。俺には時間だけはあるのだから。


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