第3話 夏の記憶
「納得いかん……!」
びゅうびゅうと潮風に吹かれ、砂浜に胡座をかいて、コンビニで買った酒瓶をあおる。
彼女に会わせてくれと頼み込んだが、取りつくしまもなく追い返されて早2日。
俺はいまだに、恋人に会えていない。
ならばと島中を血眼になってさがし回ったが、やっぱり見つけられず。
──そんなにして、俺と会いたくないんか?
ふてくされて、『彼女 突然 別れ 理由』とスマートフォンの検索エンジンに思考を放る。
すると、「女の子はこっちの気持ちに気づいてほしい」とか、「ちゃんと好きって口にしてほしい」とかとか、御大層な回答がぞろぞろと。
「うわ……『言わなくても察してよ』とか言うくせに、こっちの気持ちは『言わないとわからない』って……理不尽やろ」
全国の恋する乙女諸君には申し訳ないが、これには引く。
他人の気持ちがそうそうわかるかい。エスパーじゃあるまいし。
それに『好き』とか『愛してる』とか、軽々しく口にするもんじゃない。ありがたみもクソもなくなるだろ。
あぁそうだよ、しょせんは酔っ払いの愚痴だよ。ほっとけ。
「あかん、頭ガンガンしてきた……」
これ以上考えることを放棄するみたいに痛み出した頭とひざを抱えて、俺は砂浜に独り、うずくまった。
* * *
俺は物心がつかないうちに両親が離婚して、親父に引き取られた。
生まれは沖縄らしいが、転勤族の親父に引っついて関西を転々としていたからか、言葉はそっちの訛りのほうが強い。
「瀬良垣美波です。ミナとか、ミィナって呼ばれとるよ」
美波と出会ったのは、俺が9歳のとき。
このころには親父の仕事もひと段落。
夏季休暇を利用して数年ぶりに帰省するっていうから、ついてきた。
それが、この島だ。
俺の3つ年上の美波は、当時12歳。
転校ばかりで人見知り大全開だった俺に、小麦色に焼けた顔でニコニコと話しかけてきた、物好きなやつだった。
「ねぇ見て見て! オジサン! オジサン釣れたぁっ!」
出会った初日。赤い魚をわしづかんで、釣り竿をかついだ美波が、突撃してきたっけ。
親父の実家、いまはおばぁがひとりで住んでるうちと美波の家は、おとなりさんだったんだ。
「……なにそのサカナ、オジサンていうの?」
「そうさぁ。見てこのヒゲ! 赤い顔!
「食べられるんかい……」
「あい、ミナちゃん。よくきたねぇ」
「おばぁ! こんにちは! ほら、ピチピチのオジサン!」
「
「ほんと? ありがとう〜」
おてんば娘の美波にたじたじなうちに、おばぁが来て、勝手に話をすすめるし。
「なーなーアラシくん、海辺にでっかいブランコがあってな、あとでミナとあそびに行こうね」
「……ちょっとなら」
内気な都会っ子だった俺。
そんな俺を、はじけんばかりの笑顔で連れ出した美波。
さんさんと照りつける太陽が、白い砂浜が、青い海が、まぶしくてまぶしくて、しかたなくて。
刺し身になったオジサンは、めちゃくちゃうまかった。
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